有馬朗人先生のご逝去に想う 

 

有馬先生と個人的に面識を得るようになったのは、2011年春、トリウム熔融塩炉研究会の時であった。有馬先生のご逝去を悼み、ご遺徳を偲びながら、ご遺言を改めて見直し、日本の将来のためのメッセージを探りたいと思う。 注1[i]

 

1、        日本の科学技術の未来に対する憂慮

 有馬先生は晩年、日本の科学技術力本世界第2位から第14位へ、急速に凋落してゆくことを嘆かれていました。

特に、原発反対の世論風潮もあって、原子力を専攻する学生が激減し、先生のお膝元の東大でもついに原子核工学科は廃止となってしまいました。宇宙の究極のエネルギーは原子力であるのも関わらず、日本が核融合の研究における国際競争の戦線から脱落しつつあることを特に嘆かれ、若手研究者の育成の重要性を訴えておいででした。

先回(8月26日、第3回MSR)での基調講演「新型原子炉・使用済み核燃料処理をめぐる世界情勢」が先生の遺言のようなほとばしる憂国の情あふれるご講演でした。ぜひユーチューブでご視聴ください!

先生はまた、東北大震災で犠牲になられた方々、特に自らの専門とされる原子力発電事故には責任を痛感され

安全原発の開発に力を注がれました。

 

[ii]注2

 

2、        日本の科学技術発展の阻害要因

有馬先生は、大変気さくなお人柄の方で、「トリウム原発が実用化するまでに何年かりますか?」との小生の質問に対し「日本の現状からは30年間はかかるであろう!」とお答えになった。その時から、すでに10年間が経っている。

物事を大きく変えようとする場合、日本では科学的事実よりも世論や風評の影響が大きい。「空気」という得体の知れない雰囲気が漂っており 、 これを一気に変えるためには、想定外の危機に遭遇する機会を利用するか、外圧を利用するかである。

和の論理、集団主義は日本の長所であるとともに、最大の弱点でもある。文科省、財務省を始め、各省庁の不祥事は、省内倫理が国民倫理から遊離して暴走するからで、それが露呈するのは偶々の偶発事件に過ぎない。「省益あって国益無し」の政府には  如何に無駄の多いことであろうか?

このようなことは政府に限ったことではなく、企業、大学及びあらゆる日本の組織 集団に言えることである。日本に将来を考えるにあたっては、日本の長所が時には短所でもあることについて、国益のためには迅速な変革を実行する諸外国の例を参考にしながら、深刻に検討すべき課題であろう。

 有馬先生のご逝去で思い起こすのは、大浜信泉先生のことである。日本社会では有名人の名声が過度に利用される。 大浜先生は、早稲田大学の募金を始め、沖縄万博、政府の審議会等、ご高齢を顧みずにご尽力され, 死期を早められた。 

有馬先生も数多くの役割をこなされ、ご苦労された。我々は、有名人の名声に頼りすぎて甘えることなく、人材をより実務的に見て、適材適所に登用すべきではなかろうか? 注3[iii]

 有馬先生が亡くなられた翌日(126日)、トリウム原発推進の国際会議が開催された。今回の会議の記録は、 ビデオで録画され、ユーチューブでも配信される予定である。科学技術の発展の度合いは、ますます加速している。カセット、ビデオテープ、メモリースティックの時代から、今や記憶媒体の装置が不要のネットでつなぐ時代へと移行している。未だに終息の兆しが見えないコロナ危機は、パソコンについても、従来の人や物の移動という時代から、情報をネットで繋ぐ時代へと“文明の大転換”を促している。

去る8月26日の有馬先生の基調講演の時と同様、今回もZoomによる配信は無かった。原子力の最先端を研究している現場でさえ、いまだローテックから抜け出すのは容易でない。ましてや他の分野においては、“何をか言わんや” である。科学技術は益々発展するであろう!要するにこの科学技術を人間社会にどう取り込み、世界平和、人間幸福に如何に役立てるか?科学技術の本質を知り、これを生かす全体知が大切である。教養(哲学)の重要性が叫ばれるのも一理ある。

 

3、     お金はある、無いのは国家ビジョン(頭脳)と勇気である。

去る12月6日、トリウムの国際会議で小生も質問した。古川和男先生亡き後、弟の古川雅章氏は、トリウム原発実現に向け、民間ビジネスとして軌道に乗せようと努力されている。この10数年の熱い思いとご努力を知る者として、発言せざるを得なかったからである。

小生の質問のポイントは、ミニ富士開発の費用300億円、20KWのフジ開発の費用3000億円を如何に捻出するかである。そのためには、先ず、現状の不具合や無駄を洗い出し、改善策を提示することであると提言した。   

 福島原発事故放射能除染に対して数十兆円のお金が計上されている。その除染経費はスーパーゼネコンに数千億円の単位で丸投げしている。ゼネコンは下請け会社に委託、その子会社は除染作業員を公募し、人数を獲得するためにさらに請負会社が加わることになる。末端ではやくざも絡みその日暮らしの日雇い労働者も動員されている。巨大な対策費用も屋上屋を重ねた中間組織にピンハネされ、現場の作業員にわたるのはその10分の1以下であることも多い。福島原発災害の現場で働いたボランティアは、この矛盾した現場を見て、失望のうちに現場を離れる人が、あまりにも多い。

除染に当たってはフランスとの国際協約があり、勝手に除染でいない。これでは日本で独自の除染技術の開発の余地が無い。除染対策費一つとっても、無駄を省き、前向きの研究開発の資金を捻出することは、それほど難しいことでは無い。

 次に資金捻出の積極策(プラス面)を考えて見よう!

大切なことは、国家予算の編成に際して優先順位を検討・設定することである。

日本には国家総合戦略がないといわれる。それは国家ビジョンが曖昧で、受け身であるためである。「世界平和を希求するなら、そのために日本は何を為しうるのか?」待ちの消極的平和論から攻めの積極的平和論へと転換し、他国からも歓迎され、自国の若者も「よしやるぞ!」と元気の出るような高邁な夢を提示することである。安倍内閣は安全保障・経済政策に「世界平和への積極的国家戦略」を導入した。しかしこの用語の発案者、西原春夫先生(元早大総長)の意図は、「青年に夢を!」という教育者としての次元から提言であった。今後は文化・教育等ソフト面を含めた総合戦略としてシフトすることを期待したい 。

  1970年代末、日本の10年後の研究プロジェクトの折、ブルキング研究所からナショナルプライオリティーの年次レポートが出されているのが目に留まった。予算案を作成するにあたって、目標とそのプライオリティーを設定し、その成果がどうであったのかフォローした分厚い年次レポートであった。

 天井知らずの福利厚生費や、1から2割負担の保険でカバーされているので、国民は安いと錯覚し、薬漬け医療の弊害を見過ごしている。二兆を超す防衛費も研究開発に投入されるのはわずか  %、大学における軍事研究はタブー(禁句)である。他方中国の軍事研究には積極的に協力するといった矛盾を日本学術会議は露呈した。ことの 真相を国民に知らせる面ではマスコミの責任は重いが、真実の報道、勇気ある報道というには、あまりにも事実と懸け離れてはいないか? 売上の増大や、社内での労組との対立回避のための保身に偏った経営方針の軌道修正・改善が望まれる。注4[iv]

 憲法改正が叫ばれているが、待ちの消極的平和論から「日本は世界平和に、このような方法で貢献する」いう積極的平和ビジョンを憲法に謳うべきである。その具体的行動として、トリウム原発開発のプロジェクトは国家プロジェクトとして推進するに最適のプロジェクト一つであることは確かである。

その理由は、まず、第1に決して兵器とはなり得ない。このため米国ペンタゴンは4年間無事故で稼働していたトリウム原発の稼働を中止した。第2にトリウム溶融塩炉は原理的に事故が起こりえないトリウム発であること、第3に世界はウラン燃焼後のプルトニュウムの処理に困っているが、これを再燃焼して償却できること、日本の国是として世界各国から共感を呼ぶプロジェクトである。いろいろな無駄を省き、ちょっと知恵を傾ければ、トリトリウム開発の資金を捻出するくらい、何でもないことであろう。

 ユージン.ウイグナー(世界最初の原子炉成功者)、アーウイン・ワインバーグ(軽水炉のの完成者)先生を始め、これを日本に誘導しようと努力した西堀栄三郎、古川和男先生等の努力を見て来た一人として、これが民間のプロジェクトでしかない現状を傍観しているのは、忍び難い。

国の成り立ちが個人であり、民間である米国と違って、国の成り立ちが、個人であり民主(民間)である米国と異なり、日本は天皇制の下、政府指導型(上意下達)の政治制度である。封建時代(武家政治)が、長く官尊民卑の伝統は抜けがたい。米国では自ら稼いだお金は寄付することも比較的容易であるが、日本では寄付するのにも高い税がかかる。また公共性のある民間団体を厳しく管理し、高い税を払わせる一方、政府の特殊法人は無税である。政府はあらゆる手段を講じて金を集めて配ることが専門で、会社のように利潤を生みだし必要も倒産や失業の心配もない。国民の9割5分以上を占める中小企業の人々のご苦労を思うにつけ、真に国民のための政治・行政が行われるべきであると強く思う。

 

4、ネットワークの重要性

 志を立て夢に向かって前進されている方々を幾人も知っていますが、天の時、人の和、地の利がそろわないと

 その夢を実現することは困難であることを痛感します。

 多くの優秀な専門家が居る中で、これを束ね、1つの方向に向け、結果を出すために、黒子に徹する

ネットワーカー)の役割はきわめて重要です。今日、トリウム原発の研究が,ようやく日の目を見るように

なったのは、金子和夫先生のようなキーマンの方々のお蔭です。高邁な理想、人の和、資金を結び合わ

せる勇気ある行動が未来の扉を開きます。     

                        以 上



[i] 古川和男先生を偲ぶ

2010年12月、Mr. トリウムこと、古川和男先生はご逝去された。古川先生は、台風12号東京直撃直下9月日、病身を押してご講演下さった。ちょうどご来日中のユスフ殿下(ブルネイ建国の父、広島での留学生時代に被爆)も来賓として祝辞をいただく予定であったことを思い起こす。古川和男先生はどれほど研究開発費を得ようと努力されたことであろうか? 先生の切実な訴えを政府はもちろん、東電を経団連は門前払いやその場しのぎの応対ですませた。いま東電も政府も国民もそのつけを払わされている。

晩年の古川先生の悲痛な叫びはろくがされている。また先生の新聞や雑誌の寄稿された記事の一部は下記のサイトで昇華されている。

「エネルギー政策フォーラム─原発革命:液体・トリウム・小型─」

「トリウム原発は第3の道と成りうるか?』 日本のトリウム熔融塩炉の父、古川和男博士逝去

東大元学長の有馬朗人さん死去 90歳 (NHK News Web 2020.12.7: 21.14)

 

[ii]3MSR 有馬先生の基調講演

 使用済み核燃料再燃焼できる溶融塩炉 TTS   

 

[iii] 、集団の論理に偏向している日本、科学的事実に目を向けるべき!

  原子力発電に未来はあるか?」原発について賛否両論の議論を添加していたその日、同時刻、浜岡原発事故があった。もんじゅ高増殖の評議会の座長をされた有馬先生、西澤潤一先生は口をそろえて「原子力開発は、技術そのもの(ハード)の問題というよりは人的問題(ソフトウエア)の問題である」と指摘されていた。「物理学者つぃてノーベル賞を受賞してこそ認められるが、研究以外のいろいろなことをやり学問を究められなかった。」と有馬先生が述懐されている。偉い専門家にたよるだけではなく、文系の学生も科学技術に対する知識を身に着ける教養、ジェネラリストの養成が急務である。

東北大震災に遭遇して、日本地震学会会長は地震を予知出来なかったことで茫然自失し、有馬朗人は「これを一生の不覚」と自戒された。過去の震災の事実の軽視、現状の専門知識に安住していたことが大きな要因と言える。日本の技術革新力ランキングは世界14日本以外でトップ30入りしたアジア国・地域はシンガポール(7位)、韓国(11位)、香港(16位)、中国(22位)

 

[iv] 米国の50分の1の日本の研究開発費

米国の国防予算は75兆3千億円、軍事技術の研究開発予算は約8兆円、日本の防衛予算は約5兆円(研究開発費は約1500億円)で、研究開発予算を直接比較すると、日本はア

メリカの約2%に過ぎない。2018年の中国の国防費8.1%増の184,500億円、日本の防衛費(51911億円)の3倍以上。中国の国防費には最新兵器の研究開発費が含まれていない友見方が多く、実態は公表額の23倍との指摘もある。

 
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核兵器廃絶、世界平和実現とエネルギー開発 .3.11
「トリウム原発は第3の道と成りうるか?』