アインシュタインが予言した「重力波」初検出 ブラックホールの合体は一般相対性理論と完全一致した

宇宙から届く「重力波」を米チームが世界で初めて検出し、アインシュタインが一般相対性理論で示した予言が100年ぶりに証明された。光では見えない「暗黒宇宙」の姿をとらえる画期的な成果で、新たな天文学や物理学に道を開く「世紀の発見」となった。(草下健夫、黒田悠希)                   
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ブラックホール合体で発生 「暗黒宇宙」見る天文学に道

 重力波は星などが運動した際、その重力によって周囲の空間がゆがみ、それが光速で伝わる波動現象のこと。米カリフォルニア工科大などのチームは、西海岸のワシントン州と南部のルイジアナ州にそれぞれある大型観測装置「LIGO」(ライゴ)で初検出に成功した。


【科学】アインシュタインが予言した「重力波」初検出 ブラックホールの合体は一般相対性理論と完全一致した
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 2台がとらえた空間のゆがみを示す波形はほぼ同じで、一般相対性理論の予測ともよく一致した。このようなことが重力波以外の原因で起きる確率は20万年に1回程度と極めて低く、99・999999%と非常に高い信頼度で重力波を検出したと結論付けた。

 波形の振幅や周波数を分析し、一般相対論に基づきシミュレーションした結果と照らし合わせて、この重力波がどのような現象で発生したかを推定。その結果、地球から13億光年離れた場所で、太陽の質量の36倍と29倍のブラックホールが衝突・合体し、同62倍のブラックホールができた際に生じたと分かった。

 合体の前後では同3倍の質量が失われており、これに相当するエネルギーが重力波となって広がり、13億年かけて地球に到達したということだ。発生源の方向は特定できないが、2台の装置が7ミリ秒の時間差で検出したことなどから、天球の南半球とみられる。

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 この装置はレーザー干渉計と呼ばれ、極めて微小な空間のゆがみを検知できる。LIGOは長さ4キロの2つのトンネルが直交するL字形の装置で、トンネル内はレーザー光が行き来している。重力波が通過すると、空間が伸び縮みしてレーザーの波にずれが生じることを利用する仕組みだ。LIGOは地球と太陽の距離(約1・5億キロ)が、水素原子1個の10分の1の長さだけ伸び縮みする変化を検知できるという、信じられないほどの超高感度を誇る。

 光では見えないブラックホールの合体という劇的な現象が観測されたのは初めて。人類の頭脳とも呼ぶべきアインシュタインの理論と、最先端の科学技術が出合うことで実現した驚くべき成果といえる。

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 検出可能な重力波が生じる大規模な現象が天の川銀河で起きる確率は、数十万年に1回程度しかない。そこで米チームは遠くの銀河から届く重力波をとらえようと2002年に観測を開始した。ようやく初検出に成功したのは昨年9月14日。感度向上のための工事を一時中断し、試験観測を開始してから3日目に訪れた“幸運”だった。
                   
宇宙創成の謎解明へ突破口

 重力波の検出は一般相対性理論の正しさを改めて証明するとともに、重力波で宇宙を見る天文学の新時代が幕を開けたことを意味する。宇宙誕生に迫る新たな物理学を開拓する突破口にもなりそうだ。

ニュートンは万有引力を発見したが、物体に重力が働く理由は説明できなかった。これに対しアインシュタインは1916年、重力は物体の周囲に生じる空間のゆがみだとする一般相対性理論を提唱した。

 この理論によると、重い天体の周囲では光が曲がって進むはずだ。この仮説は皆既日食の際、太陽の周囲の星の位置がずれて見えたことで19年に証明された。また、宇宙は膨張していることになるが、これも遠くの銀河ほど高速で遠ざかっていることが29年に観測され裏付けられた。

 唯一、検証されていなかったのが重力波だ。その存在は79年に間接的に示されたが、実証は長年の宿題だった。予言からちょうど100年の今年、アインシュタインの偉大さが再認識された形だ。
重力波の観測について、東大カブリ数物連携宇宙研究機構の大栗博司主任研究員(素粒子論)は「強い重力場における一般相対性理論の検証としても重要だ」と指摘する。

 重力波は宇宙観測の究極の道具といえる。全ての物体を貫通し、減衰せずに伝わるため、光や電波などを使う従来の望遠鏡ではとらえられない天文現象を観測できるからだ。

 ブラックホールは巨大な重力で全てのものを吸い込み、光さえ脱出できないため、これまで直接観測できなかった。中性子星と呼ばれる非常に重い星の合体や、超新星爆発などの観測にも期待が高まる。

 宇宙創成の謎の解明にもつながりそうだ。宇宙は138億年前の誕生直後、加速度的な急膨張を起こしたとされる。佐藤勝彦東大名誉教授らが1980年代初頭に提唱した「インフレーション理論」と呼ばれる仮説だ。光が差さない暗黒時代の出来事のため検証されていないが、将来は重力波で痕跡の確認が期待される。原始宇宙の姿を解明できれば、宇宙に存在するさまざまな力を統一的に理解する物理学の大目標につながる可能性もある。
重力波の検出は相対論の検証だけでなく、新たな天文学や物理学の誕生につながる極めて大きな意味を持つ。ノーベル賞の受賞が確実なのは、このためだ。研究は今後、爆発的に進展するだろう。                   
「ノーベル賞確実」

 佐藤勝彦東大名誉教授(宇宙論)の話「今回の観測データは一般相対性理論と見事に一致しており、その美しさに驚いた。完全と言っていいほどの一致で、相対論が本当に正しいことを示している。理論物理学の偉大さを証明した。歴史に残る大発見でノーベル賞は確実だ。この発見により重力波で宇宙を観測する重力波天文学が創始された。最大の課題は原始重力波をとらえて宇宙誕生の様子を描き出すことだ。インフレーション理論は今回より波長が長い重力波が宇宙に満ちていると予言している。この原始重力波も今世紀中には直接観測されると期待している」

「かぐら」 米欧と連携、大きな役割

 東大宇宙線研究所の重力波観測装置「かぐら」は昨年11月、岐阜県飛騨市神岡町に完工し、来月中旬に試験観測を始める。初検出は先を越されたが、米欧と連携して重力波天文学の進展に大きな役割を果たすと期待されている。

 米国がとらえた重力波は、宇宙のどこから来たのかはよく分かっていない。発生場所を特定するには三角測量の原理に基づき、3カ所以上の装置で検出する必要がある。

 世界の大型装置は米国のほか、イタリアに欧州チームの「VIRGO」(バーゴ)がある。かぐらは米欧と離れたアジアに位置するのが利点で、計4台で観測すればより正確に場所を割り出せる。(9/9ページ) .

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米国が歴史と組織力で日本を圧倒した…震災も影響し「かぐら」出遅れ

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 天文学に新たな道を開く重力波の初検出。大発見の背景と今後の展望を探る。

 「重力波を検出した。われわれはやった」

 研究チームを率いる米フロリダ大のライツィー教授は会見でこう話し、笑顔で両手を広げた。会場から一斉に歓声と拍手がわき起こる。アインシュタインが100年前に示した予言を、米国が実証した“勝利宣言”の瞬間だった。

 「ガリレイは400年前、望遠鏡を空に向け現代の観測天文学を開いた。それと同じくらい重要な成果だ」。ライツィー氏は誇らしげに意義を説明した。

 中継映像を見ていた大阪市立大の神田展行教授は「すごいことだ。重力波のみならず、ブラックホールを人類が初めて直接観測した大快挙で、ものすごく感動している」と語った。

 日本の研究者は歴史的な偉業に賛辞を惜しまない。だが胸中には、無念さもあるはずだ。東大宇宙線研究所が岐阜県に建設した大型装置「かぐら」が来月に観測を開始する矢先の出来事だったからだ。

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