不破敬一郎前所長は,平成2年4月1日をもって国立公害研究所所長を退任され,その記念講演会が去る4月17日に
催されました。以下は,その時の先生のご挨拶を,セミナー委員会委員長 菅原淳生物環境部長がまとめたものです。
不破敬一郎先生は,当研究所開設以来16年余り,あの大きな肩に研究所をがっしり担って,守り育ててこられました。この
度の退官を記念して,「国立公害研究所の過去と将来」と題する講演会が大山記念ホールで催されました。
講演に先だち,小泉明所長のご挨拶があり,不破先生のこれまでのご功績を称え,長い間のご苦労に感謝の意が表され
ました。
次いで不破先生のご講演に入り,先週モスクワで行われた「世界言論人大会」の環境保全の国際協力のセッションのパネリ
ストとして参加された時のご様子を述べられながら,ソ連ではやはりペレストロイカとグラスノスチが話題の中心であったこと,
ソ連の友人の学者からその語源を聞いたところ,ペレストロイカの日本語のぴったりした訳は“見直し”であること,国公研も
現在組織改革の“見直し”をやっているが,これはまさにペレストロイカであると感じたこと,また,グラスノスチ—情報公開—に
関しても,わが研究所でも環境情報センターの設立を新組織の中で考えており,よく当てはまっていて大へん嬉しく感じたことを
話されました。またソ連で日米構造協議のニュースがテレビで流れていたことに関して,米国が日本の独特の歴史を理解して
欲しいという観点から発展して,EPAの研究グループが大きいこと,研究者数が多いことに触れ,国公研は研究者が少ないけ
れども,1人1人が独立して研究して欲しい,研究は1人の研究が重要であり,1人が集まってグループのアクティビティになる,
2人の共同研究あるいは2人の頭脳から,オリジナリティは生れにくい,少ない人数を心配することなく,研究所の持つ特色を
生かした研究に各人が取り組んで欲しい,しかし,裏をかえせば,研究の自由と責任は個人が持つということになる,これを
肝に銘じておくことが大切,と大変貴重なお話をいただきました。
このあと,国公研の過去と将来へのつながりについてのお話に入り,大山初代所長が,不破先生担当の計測技術部に対し,
「君のところは正しい値を出してくれよ」とだけいわれたことに触れ,これはサイエンスの基本であり,精度—アキュラシー(accuracy)
とプレシジョン(precision)を一緒にした日本語—の管理が必要であり,この精度管理ができなければ,その値は国際的に相手に
されないことを述べられて,国公研が標準試料を作成してこれに応えてきたこと,将来合体する公害研修所を外国人研修や
モニタリング研修もできるセンターにすべきであると希望されました。
次いで,佐々学二代目所長と文部省環境科学特別研究とのお話,近藤次郎三代目所長と学術会議とのお話から進展して,
新組織の地球環境研究センターが充分機能するように研究の国際化に向けて努力するよう示唆されました。
最後に浜田主任研究企画官より閉会のご挨拶があり,今後も環境科学分野で重鎮としてご活躍される不破先生に対し,変ら
ぬご指導をお願いして,講演会を終了しました。