研究業績の題名
農耕地から発生する温室効果微量ガスの評価と削減技術の開発・普及

業績紹介
二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの大気中の微量ガスは産業革命以降に発生が急増し、
地球温暖化の主因とされている。二酸化炭素に次いで寄与の大きなメタンはその発生源が
水田、湿地帯、家畜であり、次いで寄与の大きな一酸化二窒素の発生源は農業に使われる
化学肥料とされ、いずれも食料増産に伴う農業の拡大が発生の急増の原因とされている。
陽捷行氏は1970年代から農業技術研究所で土壌ガスの研究を手がけ、従来は硝酸からの
還元脱窒に伴う生成のみと考えられていた一酸化二窒素がアンモニアから硝酸への変化に
伴っても生成することを発見した。1980年代に地球環境問題が顕在化して以降は農耕地から
発生するメタン・一酸化二窒素の地球温暖化への負荷を明らかにし、制御技術を開発すること
に精力的に研究を展開し、成果をあげた。
第一にその計量のため、クローズドチャンバー法を開発し、我が国各地の水田からのメタン、
一酸化二窒素の発生を計測した。この計測法は、その後、我が国で行われるようになった
全国モニタリング調査の標準的な調査法として用いられている。
第二にメタンの発生にかかわる有機物の施用と水管理、一酸化二窒素の発生にかかわる
窒素肥料の施用に着目し、稲わら施用の抑制、中干などの酸化的土壌管理がメタンの発生
を抑制し、硝酸化成抑制材や被覆肥料が一酸化二窒素の発生を抑制することを明らかにした。
第三にタイ、中国などの水田に調査を広げ、研究手法・技術を海外に普及させ、国際的な微量
ガス研究のリーダーシップをとった。
これらの先駆的な研究活動は我が国の地球環境研究の大きな柱となり、陽氏は1990年の気候
変動に関する政府間パネル(IPCC)第1次評価報告書において主執筆者の一人として招聘され、
その後も長くIPCCの活動に関与し、氏の研究成果を含む世界の研究成果を取りまとめることと
なった。また、研究結果は政府の京都議定書目標達成計画における農業分野からの温室効果
ガス排出削減策の基礎ともされた。
陽氏は農業環境技術研究所の理事長として農業環境科学とその技術開発を先導するとともに、
地球環境変動と農業生態系の相互作用に関するオピニオンリーダーとして活躍した。
                      (三輪睿太郎選考委員記)