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日時:2018年6月14日(木曜)2~5:00 PM、
場所:衆議院第一議員会館・B1F大会議室
講演者:David Holcomb博士(米国オークリッジ国立研究所)
徐洪傑博士(上海応用物理研究所熔融塩炉開発総リーダー)
山脇道夫(東京大学名誉教授)
、(2018.7.3)
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第2章 2030年に向けた基本的な方針と政策対応
第3節 技術開発の推進
1.エネルギー関係技術開発の計画・ロードマップ
多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、我が国が抱えるエネルギー需
給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上
にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではない。さらに、パリ協定を踏
まえた「地球温暖化対策計画」では、「我が国は、パリ協定を踏まえ、全ての主
要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に
応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を
両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排
出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困
難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及な
どイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国
際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅
な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していくこととする。」
とした。
こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革新的なエネルギー関係技
術の開発とそのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠となるが、そ
のためには、長期的な研究開発の取組と制度の変革を伴うような包括的な取組が
必要である。
一方、エネルギー需給に影響を及ぼす課題は様々なレベルで存在しており、短
期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改
善していくことが、日々の生活や経済の基盤を形成しているエネルギーの位置付
けを踏まえると、極めて重要な取組となる。
したがって、エネルギー関係技術の開発に当たっては、どのような課題を克服
するための取組なのか、まずその目標を定めるとともに、開発を実現する時間軸
と社会に実装化させていくための方策を合わせて明確化することが重要である
との認識の下、そうした様々な技術開発プロジェクトを全体として整合的に進め
ていくための戦略をロードマップとして、「環境エネルギー技術革新計画(20
13年9月総合科学技術会議決定)」等も踏まえつつ、「エネルギー関係技術開発
ロードマップ」を2014年12月に策定した。
また、2016年4月には、2030年のエネルギーミックスの実現を図るた
め、省エネルギー、再生可能エネルギーをはじめとする関連制度を一体的に整備
する「エネルギー革新戦略」を策定するとともに、現状の温室効果ガスの削減努
力を継続するだけでなく、抜本的な削減を実現するイノベーション創出が不可欠
であるとの認識の下、2016年4月に「エネルギー・環境イノベーション戦略」
を策定した。
今後、2050年のシナリオ設計に向けては可能性と不確実性が混在するため、
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「野心的かつしなやかな複線シナリオ」が必要となる。この実現には非連続の技
術開発が必要であるが、現段階では技術間競争の勝者を見極めることは困難であ
る。このため、最新の情勢と技術革新の進展を見極めながら、各選択肢の開発目
標や選択肢間の相対的な重点度合いを決定・修正していくことが必要であり、そ
のための仕組みとして、科学的レビューメカニズム(詳細後述)の具体化に向け
て早期に検討を進める。
2.取り組むべき技術課題
海外からの化石燃料に過度に依存するエネルギー需給構造を長期的視点に基
づいて変革していくための技術開発として、国産エネルギーに位置付けられる再
生可能エネルギーについては、より革新的な技術シーズを発掘、育成しながら、
太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマスエネルギー、波力・潮力等の海洋
エネルギー等の低コスト化・高効率化や多様な用途の開拓に資する研究開発等を
重点的に推進するとともに、再生可能エネルギー発電の既存系統への接続量増加
のための系統運用技術の高度化や送配電機器の技術実証を行う。
同様に、準国産エネルギーに位置付けられる原子力については、軽水炉技術の
向上を始めとして、国内外の原子力利用を取り巻く環境変化に対応し、その技術
課題の解決のために積極的に取り組む必要がある。その際、安全性・信頼性・
効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、水素製造や
熱利用といった多様な社会的要請の高まりも見据えた原子力関連技術のイノ
ベーションを促進するという観点が重要である。まず、万が一の事故のリスクを
下げていくため、過酷事故対策を含めた軽水炉の一層の安全性・信頼性・効率性
向上に資する技術の開発を進める。また、水素製造を含めた多様な産業利用が
見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する
技術開発を、海外市場の動向を見据えつつ国際協力の下で推進する。
さらに、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の
開発を進める。このような取組を支えるため、人材育成や研究開発等に必要な
試験研究炉の整備を含め、産学官の垣根を越えた人材・技術・産業基盤の強化
を進める。なお、こうした取組を進めるに当たっては、小型モジュール炉や溶融塩
炉を含む革新的な原子炉開発を進める米国や欧州の取組も踏まえつつ、国は
長期的な開発ビジョンを掲げ、民間は創意工夫や知恵を活かしながら、多様な
技術間競争と国内外の市場による選択を行うなど、戦略的柔軟性を確保して
進める。
また、核融合エネルギーの実現に向け、国際協力で進められているトカマク方
式のITER計画や幅広いアプローチ活動については、サイトでの建設や機器の
製作が進展しており、引き続き、長期的視野に立って着実に推進するとともに、
技術の多様性を確保する観点から、ヘリカル方式・レーザー方式や革新的概念
の研究を並行して推進する。また、放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、
安定した放射性廃棄物の最終処分に必要となる技術開発等を進める。
これらに加えて、我が国の排他的経済水域に豊富に眠ると見られているメタン
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イドレートや金属鉱物を商業ベースで開発が進められるようにするための技
術開発を中長期的な観点から着実に進めていく。
また、水素については、再生可能エネルギーと並ぶ新たなエネルギーの選択肢
とすべく、国内外の水素需要の拡大を図るとともに、中長期的な水素コストの低
減に向け、水素の「製造、貯蔵・輸送、利用」まで一気通貫した国際的なサプラ
イチェーンの構築、電力や産業等様々な分野における利用促進などのための技術
課題の解決に向けた取組を加速していく。さらに、アンモニアを燃料として直接
利用する技術開発、水素をCO2と組み合わせることでカーボンニュートラルと
しうるガスを生成するメタネーションなど、既存のインフラを有効利用した脱炭
素化のための技術開発を推進していく。無線送受電技術により宇宙空間から地上
に電力を供給する宇宙太陽光発電システム(SSPS)の宇宙での実証に向けた
基盤技術の開発などの将来の革新的なエネルギーに関する中長期的な技術開発
については、これらのエネルギー供給源としての位置付けや経済合理性等を総合
的かつ不断に評価しつつ、技術開発を含めて必要な取組を行う。
また、様々なエネルギー源を活用していくために不可欠な要素である安全性・
安定性を強化していくための技術開発として、例えば、二次エネルギーの中心を
担う電気を最終消費者に分配する要となる送配電網を高度化するため、変動電源
が今後増加することに対応して、高度なシミュレーションに基づく系統運用技術
などの基盤技術の開発を加速するとともに、蓄電池や水素などのエネルギーの貯
蔵能力強化などを進める。
さらに、エネルギーのサプライチェーンにおける全ての段階でエネルギー利用
の効率化を進めることで、徹底的に効率化されたエネルギー・サプライチェーン
を実現するため、石炭やLNGの高効率火力発電実現のための技術開発や、利用
局面において効率的にエネルギーを利活用するための製品について、材料・デバ
イスまで遡って高効率化を支える技術の開発、エネルギー利用に関するプロセス
を効率化するためのエネルギーマネジメントシステムの高度化や、製造プロセス
の革新を支える技術開発に取り組む。
こうした徹底した効率化や水素の活用のための取組を進める一方、それでも最
終的に対応しなければならない地球温暖化などに関する課題について、例えば化
石燃料を徹底的に効率的に利用した上で最終的に発生するCO2に対応する技
術としてCCSなどに関する技術開発や実証も並行して進めていく。
また、これら研究開発は、科学技術基本計画に基づいて策定される統合イノベ
ーション戦略も踏まえて推進することとする。
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