「平和と軍縮」(1)  2010年8月25日 記
                                      大脇 準一郎

 8月25日(水曜日)から27日(金曜日),「第22回国連軍縮会議inさいたま」
が,浦和ロイヤルパインズホテルにおいて,国連軍縮部、国連アジア太平洋平和
軍縮センター主催で開催されている。会議初日,会議の主催者セルジオ・デュア
ルテ国連軍縮部上級代表が開会挨拶、本年5月NYで開催された2010年核兵器不拡
散条約(NPT)運用検討会議議長リブラン・カバクトゥラン大使(フィリピン国
連常駐代表)やローラ・ホルゲート米国家安全保障会議WMDテロ脅威削減担当上
級部長等,国内外の政府関係者や有識者が参加。*

今回のさいたま会議では,「核兵器のない世界:構想から行動へ着実な前進」を
テーマに,2010年NPT運用検討会議の結果と今後の課題,「核兵器のない世界」
に向けた具体的措置,朝鮮半島や中東等の地域での核問題,アジアにおける通常
兵器の管理,市民社会との連携及び軍縮・不拡散教育といった様々な観点から議
論が行われています。昨日の第4セッションでは「核兵器の無い世界へ向けた市
民社会の協力の推進」を討議。小生が会議で発言した内容を中心に以下、感想を
列挙したい。

1、このセッションで国連大学の教授が学際的アプローチの重要性を上げ、自然
 科学と社会科学の協力の必要性を訴えたが、「なぜ人文科学をはずしたのか?」

 小生が質問するとこれは「まったくの本人の誤りである」との回答であった。

 「自然科学の行き過ぎ、社会科学の怠慢、宗教や哲学が死んでしまった」とい
 う、人文科学分野の貢献がないがしろにされている現状を端的に。人間の住む
 3つの世界、自然との「共生」、社会との「共栄」は大分人口に膾炙されてい
 るが、心の世界での価値観の相克を融和する「共義」がもっと注目されるべき
 であることを小生は力説した。「共生、共栄、共義」いずれも「共」である。
 人類は存在観を誤っている!存在とは個物(原子から宇宙、個人、家族、社会
 国家から世界)だけが存在という独りよがりな妄想から目覚めて、存在とは関
 係性(場)と個物の2重的存在であるとの存在の実相に目覚めるべきであろう。
 限られた時間なので詳しく述べる時間がなかったが、セッション終了後、議長
 の須田軍縮会議日本政府代表が「自分も軍縮に哲学が必要だと思う」と、
 立正佼成会の代表の方も「宗教の重要性、役割をのべてくださって感銘しました」
 とおしゃってくださったので、ある程度の役割を果たせたのではないかと思う。

2、国連、外務省も公認のNGO、ピースボート代表はピースボートで今まで12
 0名以上の被爆者が同船し、核非拡散教育に大いに効果をあげたこと、軍縮教
 育費を設置する必要性を訴えた。政府を動かす具体的提言は見事でこの点は大
 いに学ぶところがある。ただ「インドに原発を輸出するのは問題だ」と反原発
 の政治的見解も強調していたことは少し気になった。

3、会議の終わり近く、立正佼成会代表、被爆者の方が、「立正佼成会は核廃絶
 の署名を500万名集めた、今度海外からも集め、5千万名の署名を集める」
 と、いかに立正佼成会が頑張っているかを長々と話しされていた。この署名が
 「どれほど核廃絶という究極目標達成とつながっているのか」については、2年

 間前、新潟での第21回軍縮会議の帰路、早稲田大学での地球市民フォーラム
 送って来て、むやみに焼却する訳にも行かず、在庫管理に困っていること、そ
 のエネルギーをもっと世論、日本政府を動かす方に向けてほしい」との要望された
 ことを思い起こした。


4、今回の会議は本年5月、NYでの画期的なNPTの前進、その報告会的会議であっ
 た。先日、広島の原爆慰霊祭に潘基文氏が国連事務総長として始めて参加し、
 高らかに宣言したように「2020年、核廃絶」も夢ではなくなった。秋葉広島市長の
 「2020年核廃絶、広島でオリンピック開催」のメッセージ
も石原東京都知事の東京
 オリンピック開催よりはよほど国際的説得力がある。先日、東大で「広島市、長崎市へ
 ノーベル平和賞を!」との提言もひょっとすれば「瓢箪から駒」かも知れない。

5、今回、会議に多くの高校生が傍聴していた。会議の最後に議長から特別に意
 見を求められたら、10人もの高校生が手を上げ、それぞれ若者ならではの新
 鮮な風を送った。「この会議で最も良かった」と幾人もの参加者が吐露してい
 たように最高の盛り上がりだった。先日来日されたノーベル平和賞受賞者、E.
 カーン博士のご夫人ミりアムさん、8月3日京都のホテルで60歳の誕生日である
 ことをその場で知った。ご本人の予期せぬホテル側のお祝いにカーン夫妻は
 「永遠に忘れられに一夜です」と感謝された。ホロコーストに遭遇されたご夫妻
 の親族の方々の笑顔が浮かんでくるような感動の一夜であった。主張、イデオ
 ロギーの差異、過去の一切の怨念を超えて、未来の後孫のために結束する必要
 性を痛感したことを思い起こした。

6、高校生の意見の中で「携帯で国連を知ろうと検索すると18歳未満は閲覧禁
 止となっている」「国連の日本語サイトを作ってほしい」、「たまたまホテル
 の看板を見て知ったが、もっと広報をしてほしい」等の意見は新鮮であった。
 小生も国連の関係者から熱心に参加を勧められ、初めての会議であったが、専
 門用語、特に略語にはとまどった。電子辞書にも見当たらず、ひとつひとつネッ
 トで検索するにも数時間はかかり、いまだネットで探しきれない略語もいくつ
 かある。専門家の高度な会議、最近これを大衆にも親しみのある、わかりやす
 いものとする努力が行われ始めたところだ。第3セッションまでの「会議は踊
 れど……。」専門家同士の高度な専門的知識の交流よりは、現実的な未来から
 のメッセージに余程新鮮な感動を覚えたようだ。 


「平和と軍縮」(2) 8月28日

 8月25日から3日間開催された「国連軍縮会議inさいたま」,最終日総括セッショ
 ンでも感想を述べる機会を与えられた。著名かつ能弁な多数の参加者の中に割
 り込んで意見を述べることは相当エネルギーの要ることで、かつ短い時間で要
 点を述べることは至難の技である。要望として小生は以下の3点を要望として
 述べた。

1、昨日の高校生からの要望に会ったように、「もっと庶民に親しみのある国連、
 軍縮会議であってほしい」。初めての参加であった小生にとって、略語の意味
 をネットで調べるのに1時間も懸けたがいまだネット上では探せない略語がい
 くつかある。毎年軍縮会議が日本の地方都市で開催されること自体、国連は
 「開かれた国連」をも目指していること、また国連事務総長の折に触れた発言に
 も十分その心意気が感ぜられるが、専門家のクローズドな会議から更なる解放
 を期待したい。

2、昨日第4セッションでスピーカーの1人が「政府機関と市民団体の協力の必要
 性」を強調した。各省庁にあって、外務省の目線の低さ、「みんなで国連」の
 サイトにも見られるように「市民との協力関係を築こう」とする外務省のサー
 ビス精神には日ごろ感心している。

  それにもかかわらず、外務省の方にお伺いしたい疑問点がある。国際協力総
 予算に占めるNGOへの支援額は、国連機関では平均20%、先進諸国では15
 %前後である。これに比べ、日本の国際協力に占めるNGOへの支援は、依然数
 %に過ぎない。1989年1億円から始まった民間団体支援はいまだ数百億円(2~
 3%)に終始している。“百年河清を待つ”に等しい民間支援情況をどう考え
 ているのか?官や大企業依存から、志高いNGOへ移譲するドラスティックな具
 体策が必要ではなかろうか? 尤も、このことは、官僚の問題というよりは、
 指導力を欠いた政治家の問題とは思うが、あえて外務省として単なる言い訳で
 はなく、何か前向きの具体策は無いのか?

3、「会議は踊るされど…。」今回の会議のメインテーマ「核無き世界:構想か
 ら行動へ着実な前進」にあるように、机上の議論から行動へ具体的な行動を起
 こすことである。1)公的機関の代表の皆さんは生活が保障されており、議論
 をすれればそれで事足れりとのお考えの方も多い。しかし、生活の保障もまま
 ならない中で、世界の危機的状況に矢も盾のたまらず、NGO行動しているボラ
 ンティアも多い。核廃絶を実現しようと思うなら、人生をリセットされた被爆
 者のように、退路を絶ってでも目標実現に向かう“危機意識の共有”が重要で
 はないか?

2)先日早稲田大学で軍縮をテーマに地球市民フォーラム(俗称“市民国連”)
 を開催した折、
最も印象に残った発言がある。国連本部軍縮局のスタッフが
 「いろんな団体から何十箱、1億を超える軍縮、核兵器反対」の署名簿が届けら
 れる。償却するのも大変で、保管場所に苦労している。」「署名に費やすエネ
 ルギーをもっと世論の喚起、日本政府を動かし国連の会議に反映してほしい。
 署名を頂いても国連は国家の討論の場で軍縮局には何の力も無いからです。」
 と述べた。インタネットの発達した現在、市民の意思を伝え、軍縮、核廃絶に
 向けてもっと効果的な方法を模索してはどうであろうか?小生、署名活動をし
 ている団体代表も参席されているのであえて「批判する意味ではありませんが」
 とお断りし、もっと有効な手段を模索してはと述べたのですが、小生の発言の
 後、某団体の代表から「街頭で署名という形を通じて軍縮教育を広めたいとい
 う気持ちをわかってほしい」のコメントがあった。(今朝8月29付けの産経一
 面にも加地伸行氏(立命館大教授)の署名運動体験記も載っている。署名活動
 も重要な手段であることを決して否定するものではない。)

3)「広島市、長崎市にノーベル平和を!」この8月2日、第1回国際平和文化フォーラ
 ム
が東大(駒場)で開催された。
オバマ大統領のノーベル平和賞授与は当初、
 驚きだったが、その後の彼の言動が「核廃絶」へ向けて大きな牽引力になった
 ことを考えれば、「瓢箪から駒」広島市長、長崎市長へノーベル平和賞授与」
 も決して夢では無い。核廃絶へ向けた思い切ったビジョンが求められていると
 言えよう。数々の困難を乗り超え、今日の活況を呈している人類文明、今日の
 核戦争の危機、環境破壊、精神文化を乗りえる英知もきっと生まれてくること
 を祈念したい。                     以 上

参考:
*なお今回の国連軍縮会議inさいたまの報告は下記のサイトに掲載されます。
  第22回国連軍縮会議inさいたま(概要と評価)外務省サイト
             プレスリリース

*我が国政府としては,今回の会議を通じて軍縮・不拡散分野における国際的取
組に有意義な貢献が得られるとともに,我が国市民社会におけるこれら分野へ
の理解と関心の高揚にとって一助となることを期待しています。

*国連軍縮会議は,1989年の第1回京都会議以降,毎年我が国において開催され
ており,今回で22回目の開催となる。これまで京都市で6回,広島市で3回,札幌市で
3回,長崎市で2回,仙台市,秋田市,金沢市,大阪市,横浜市,さいたま市,新潟市で
各1回開催されており,さいたま市での開催は2008年に続き22回目。

参考:「国連軍縮会議とは」   会議のプログラム(さいたま市広報)

*主な参加者:
メディア(国内):朝日、読売、中国新聞、日経新聞、埼玉新聞NHK論説・解説委員クラス
    (海外):,米、露、中、韓、インド、エジプト、イスラエル、カザフタン、イラン、スイス
       、オーストラリア、ノールウエー、専門家、大使、大使館スタッフ
専門家(国内):大学教授、専門機関研究者
NGO:ピースボート、地球市民機構(“市民国連”) 他 宗教団体:立正佼成会、創価学会 
その他、国連、外務省、地方自治体、高校生他多数、。

【略語一覧】
AG: オーストラリア・グループ   BWC:生物兵器禁止条約   CD: 軍縮会議  
CTBT:包括的核実験禁止条約 CWC:化学兵器禁止条約  IAEA:国際原子力機関

「平和と軍縮」第22回軍縮会議に参加して 大脇記
      
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  大脇 準一郎 研究室:〒181-0001三鷹市井の頭2-26-35-120
Tel&Fax:0422-26-7980 DC:080-3350-0021 Skype:junowaki 
   E-mail; junowaki@able.ocn.ne.jp,HP:http://www.owaki.info
http://www.miraikoso.org http://www.e-gci.org,
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2014.10.14 追記

 今回ノーベル賞を受賞した17歳の少女、マララさんに見られるのもこのような姿勢であり、
年齢に関わらず、時代に対する責任感がみなぎっています。責任感は愛より生じます。

 「日本にノーベル賞を!」との声、これを契機に日本が生まれかり、世界に平和の潮流を
起こす未来投資であるとすれば日本へのノーベル賞も意味があるでしょう。しかしそのために
生死を超えて女性の地位向上のために戦うマララさんのように、命がけの言葉を吐き、行動を
伴うこと。 今、日本に必要なのは、お金や技術だけではなくて、これを支える精神、モラルの
復興であると言えよう。はたしてマララさんように、あるいはガンジー、マンデラ、キング牧師のように
命を超えた平和への熱い想いが日本に燃え上がるのであろうか?
50年前のオリンピックが経済大国日本のジャンプ台となったように、来る2020年の東京オリンピックが
世界平和実現の礎石になることを期待したい。