まず内なる国際化を
国際企業文化研究所所長 大脇 準一郎
差別問題の国際的次元
先日、差別と偏見のない社会を目指す「日韓フォーラム」が鳥取県民文化会館で
開催された。朝鮮の被差別民ペクチョン(白丁)は、今日では消滅したというこ
とに対する国際理解を深めることに会の趣旨があったようだ。ところで会のあり
方に疑問を抱いたのは私一人ではなかった。会が終わった直後、多数の在日僑胞
の方々が民団団長に「差別問題を取り上げてくれなかったのか?」と詰め寄る光
景が見られた。今日、我が国には400万人弱の一時入国者、在日外国人も同和
人口を上回る122万人が存在する。この外国人達が有形、無形様々な差別を受
けていることが意外と知られていない。制度上の国際化は日米摩擦、ウルグアイ
・ラウンド等で比較的よく取り上げられるが、問題は心(意識)の国際化である。
日本人には欧米に対する劣等感(卑屈)とアジアに対する優越感(傲慢)があ
り、この日本人のダブル・スタンダードは欧米の声には過敏に反応するがアジア
の声を無視する傾向となって現われている。
在日僑胞の訴え
在日外国人の中で実に57%が韓国、朝鮮人である。これらの人々の大半は永
住者であり、日本の不幸な歴史の犠牲者である。
彼らは願わずして日本に強制連行され、帝国臣民として酷使された人々および、
その子孫である。これらの人々に対し、我が国は自分の都合が悪くなると国籍条
項で日本人から排除し、無保証の生活に追いやった。その後、難民条項批准に伴
い外国人にも適用されるようになったとはいえ、当時60歳を超えていた高齢者
は除外された。鳥取県でも26名の高齢者の方々が今も無年金者である。
我が国は今も地方公務員、教諭の採用において在日外国人に固く門戸を閉じて
いる、就職において在日僑胞の差別問題は深刻である。
欧米諸国では3年以上滞在する全外国人に地方自治体の選挙権、被選挙権を与
えることが常識化しつつある。スウェーデンでは実に100人以上の外国人県議
が活躍している。
以上の数項目の国際化の要求は、民団側が長年要請してきたことであるが、行
政側の反応は鈍い。日本はもうそろそろ脱亜入欧の近代化の夢から醒めて、アジ
アの一員としてアジアの声に耳を傾け、アジアから尊敬される国際国家日本を目
指す時ではなかろうか。
まず日韓の国際理解教育を
今やボーダレスは物だけではなく、人の移動においてもいえる時代となった。
転勤や留学、国際結婚が増えればなおさらである。このような国際化時代におい
て求められるのは、日本人の心の国際化である。民族的排他性を克服して、地球
市民としてあらゆる人種、民族を受け入れる雅量が問われているのである。未来
の世代が異なる文化に対する尊敬心を持ち、自文化に対する誇りを持てるような
国際理解教育が今、求められている。このことが最も必要なのが、とりも直さず
日韓関係においてである。
同和問題の国際化
今回のフォーラムのように、同和問題の推進者達が国内だけでなく国際的視野
を広げられていることは喜ばしいことである。願わくばさらに一歩進めて、差別
と偏見で同じく苦しんで来た同法が国内外にいることをさらに勉強され、幅広い
国際連帯のもと、地球上から差別と偏見のない真の平和世界の実現を目指す普遍
的運動に昇華して下さることを希望する。
そのための橋頭堡として、まず内なる国際化、日本最大のお客さんである在日
僑胞70万人人々の差別、偏見問題解決のために共闘されてはどうであろうか。
今回がその出発点となれば幸いである。
旬刊『政経レポート』1994年(平成6年)11月25日