「異文化理解から見た韓国の危機と希望」
2003年3月12日 港区商工会会館、第14回未来構想戦略フォーラム
国際企業文化研究所 所長 大脇 準一郎
韓国文化:個性完成(Self Identity )型
半島である韓国は、幾度となく、大陸勢力、また島国勢力から侵略された。中国
周辺の数多くの民族が歴史と共に消えていった。中国を征服した満州族さえ、中
国に同化されてしまった。韓民族が受難の5000年の歴史を生き残ったのみならず、
再び新興しつつあるその不滅の原動力は何であろうか? 韓国の碩学たちの共同
研究プロジェクト『韓民族―その不死鳥たる理由』を参考にしながら、個性完成
型の民族性を培った環境的条件、および主体的条件を調べてみることにしよう。
1、韓民族の民族的アイデンティティーを存続せしめた諸要素;
A)半島:
1)位置的特性;①大陸の周辺的特性(中国の歴史的影響)②対峙的性格(大陸
勢力と海洋勢力の半島での対決)③橋頭的性格(海洋とか陸地へ進出する拠点)
2)地政学的特性、敵を防ぎ、韓民族の生存を守るのに益した
B) “恨”と楽天性、風刺
“恨”とは、自らのかなえざる希望を抱いて嘆く状態、人を責めるよりは、ど
うしようもない自嘆の心情であるが、叶えられないものをじっと待つ心、1つの
希望があったからこそ、倒れないし死なないし、滅亡しない。待つ心を意識の底
にした待つ心は、韓国の民芸には、悲劇が作られようが無い。希望の日が来るこ
とを前提とするためである。
心で耐えているばかりでなく、苦難を歌で勝ち抜ける楽天性がある
「涙なしでは聞き、語り、歌えない『春香伝』『沈清伝』などの古典はどれもみ
な、ハッピーエンドで幕を下ろす。そうしなければ気持ちが治まらない。一旦死
んだものとされても、再びこの世に生れ出ることさえ期待される。事実韓国では
“死”を“トラカンダ”(お戻り)という。」()「さらに韓国の仮面劇の特徴
は、ウイットやユーモアに富む風刺劇であることだ。家柄や官位の自慢に明け暮
れる両班と儒性(ソンビ)、対するの賎民達、無学だが善良でで頓知にたけてい
た賎民達が両班や僧侶を俎上にのせて、自由奔放に料理するのが韓国の仮面劇で
ある。そこには爆発的な民族のバイタリティーの源泉を私は感じるのである。」
C)檀君神話と韓国的霊性
桓因はその子、桓雄を遣わし、地上を支配させようとした。桓雄は太白山頂
の神檀樹の下に降臨した。そのとき、一頭の熊と虎が一緒の洞窟に住み、いつも
人になることを祈っていた。神は、一束の蓬と20個のにんにくを授けて100
日間陽光を避け21日間の断食をさせた。虎は慎みが足りず、人にならなかった
熊は女に変身し、桓雄と結婚し、熊女は、檀君王権生んだ。
ハナニムとの交わりを通して、人間らしく、豊かに生きていこうとする原初的な
理念が見出される。その交わりが、歌と踊りであった。
5世紀ごろから中国から儒教・仏教・道教等、高度に発達した宗教が伝来し、こ
の原初的な理念は、外来宗教文化を媒介として、新しい文化として展開された。
その典型的なものが6世紀に形成された花郎道である。
「風流道」(崔致遠、9世紀、新羅の学者)儒・仏・仙3教を含む。
儒教;「克己復礼」我欲に満ちた自己を克服して人間の本性である礼に帰ってい
くこと。
仏教;「帰一心源」我執を捨てて人間の本性である一心(ハンマウム)、仏心に
帰ること。
道教;「無為自然」人間の偽りに満ちた言行心事を離れて自然の大道にしたがっ
て生きる。
三教の本質は、すべて我欲にとらわれた自己を否定して、宇宙の大法道である天
賦の本性、本心の立ち返るところにある。宇宙的な真の心とは、ハナニが与えた
心であり、ハナニムのこころである。ハナニムとひとつになる風流道こそ三教の
本質を含んでいる。
1)ハン;数量の「一」、全体、大きい、高い、天、空超人的な人格神、内在的
な道、大きくて正しい存在、儒仏仙三教が教える倫理的汎神論的存在。
「ハン族」- --ハナヌムの民、一種の選民意識
2)サム;生命という生物学的概念と生活という社会的概念を同時に含んでい
る。「サラム」人間を形成、人間は生命を維持するだけでなく文化的価値創造
し、生産する生活人である。
3)モッ;風流・美を表わす言葉、律動性、興、調和や自然、自由の概念を含む。
天地人三才円融無碍の境地
韓国思想の基礎理念はこの三つの概念「ハン・サム・モッ」(一つの
粋な生)から構成される。()
花郎道、
仏教文化の発展
儒教文化の発展
東学運動
キリスト教の韓国的展開
D)血族主義と排撃精神
韓国は血族の純血を重んずる民族。結婚しても女性の姓が変わらない。同じ血
族ない、同姓・同本貫の結婚はたといそれが千数百年前のことだろうと民法上
認められない。同属内の結婚:犬・畜生にも等しい。養子;血族のうちから家
系図(族譜)は命よりも大切なもの
同高祖八寸、八親統まで、堂内(タンネ)門中が集って祭祀がおかなわれる。
門中教育を受けて一族の団結を図る。頻繁にが外国から侵略されても、国家
はあまり頼りにならず、自分たちの村は自分たちで守らなければならなかった
ので、集団に対する忠誠心よりは一族の団結が強化された。「韓国が不死鳥で
あると言える源泉は、不義不正に対する排撃精神」「不義不正を排撃すること
よって相互牽制をして国家が永く存続できた」(李丙ド)
E)韓民族を存続せしめた積極的思想:
①護国思想(儒・仏) ②、敬天愛人思想、 ③崇文思想(風流道・花郎道)、
④ソンビ思想(軽利崇義、先公後私) 、⑤基督教精神(安秉煜)(プジョン)
国家は頼りとならず、血族を超えた集団主義、国家至上主義は未発達。
厳しい自然環境・天然資源に恵まれず、客観的精神、実学の軽視⇒科学技術は発
展せず人事でどうしようもない苦難の解決を時空を超えた普遍の世界に託し、
内的世界を深化させ、歌や踊りとして芸術面で発散さえてきた。
「ユダヤ人の歴史を貫いて流れる中心テーマは、ユダヤ人とその神エホバとの関
係である。」(M.ブーバー)
「思想が人間を動かす。そしてそれらの思想が歴史をつくる。思想の無い社会は
歴史を持たない。それはただありだけである。」(マックス・コ・デュモント)
韓国が今日まで生き残ってきたというのもハナニムを信ずる民族的選民意識、普
遍を求める思想性があったからに他ならない。
F)言語
言語は文化表現の道具、世宋大王、ハングル文字を発明、天地人の調和を基本、
文化が大衆化、まとめ)回廊⇒侵略の対象、民族の独立、アイデンティティーの
確立が至上の課題、
F) 韓国的“克己・アイデンティティー”の長所
a)ハナニムとの一体化
b)不義・不正に対する排撃精神
c)風雅2、
G)短所
a)人の和の欠如
b)独裁的・中央集権的
c)虚学の重視3、
H)韓国の希望
a) “和”の増進
b)実学の尊重
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2002年10月7日金容雲氏が講演 アジアユニオン京都会議で
W杯がもたらした日韓新時代 新文明構築への共通ビジョン、理念重要
アジアの平和と韓半島の南北統一を願って幅広い交流や情報発信を行う市民運
動「アジアユニオン京都会議」の初会合が先ごろ、京都市内で開かれた。同会議
の呼び掛け人(水谷幸正・浄土宗宗務総長、金容雲・韓国MBC放送文化振興会
理事長、湯川スミ・世界連邦全国婦人協議会会長)を代表し、韓日文化交流会議
の韓国側副座長でもある金容雲氏が「W杯サッカー大会後の韓半島とアジア共同
体構想について」と題して講演した。金容雲氏の講演要旨は以下の通り。
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日本史は古代から、韓半島とのかかわりを抜きにしては語れない。当時からこ
の半島の勢力が日本列島を侵略しようとしたことは一度もないが、日本は五、六
世紀から少しでも力を持つと韓半島を目指した。 だから、豊臣秀吉による侵略
(文禄・慶長の役)は決して突発的なものではなく、西郷隆盛に代表される征韓
論も江戸時代から既にその萌芽が出ていた。半島と日本との間には、歴史的にそ
ういう不公平とも言うべき落差がある。 一九四五年の敗戦まで、日本民族の基
本的な価値観となっていたのは軍事的思考にほかならない。そこには日本独自の
『和』の精神がある。力の強い者を中心にまとまって、弱い者を支配していくと
いうもので、本来の和は『礼』の実践時に示すものなのに、その礼の精神が抜け
てしまった、変容した形の和だ。
ルース・ベネディクトの著書『菊と刀』は日本文化の理解し難い面、矛盾性を
よく突いていて、今読んでも非常に斬新な感じがする。
日本人には、刀に象徴される侵略性と菊に象徴される芸術、文化を愛する心が
混在しているという指摘だが、六六三年以降、日本が韓半島に示して来たのはい
つもその刀の部分だった。韓国人が日本人に見てきたのは、いつも刀に象徴され
る侵略性ではなかっただろうか。
▼ 日本は今こそ、菊の部分を韓国人に見せるべきであり、私たちが今年二〇〇
二年を重大視するのもそこに意味がある。ワールドカップの日韓共催が決まっ
たころ、マスコミから感想を求められて私は『これは天佑(てんゆう)だ。日
本が菊の部分を見せてくれる千載一遇の好機になるだろう』と話した。 でき
れば日韓両チームが決勝でぶつかり、韓国が勝てばいい。勝つことで韓国人の
間で根深い日本への怨念が消える。そう希望していたが、実際はそうならなかっ
た。だが、決勝で対決したと同じくらいの歴史的な効果があったと思っている。
W杯は単なるスポーツの祭典で終わらなかった。 日本の天皇が、自分の体
には百済の血が流れていると発言された(昨年暮れの「桓武天皇の生母が百済
の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを
感じています」とのご発言)が、これはW杯を通じて日韓が新しい時代に入る
ことをはっきりと感じられたためだ。 そういうかつてないムードが韓半島と
の間に造成されて、小泉首相の訪朝も実現し、今現在できる最大のことを決断
して果たしたと思う。
▼ 改革あるいは新しい歴史を開くということは、往々にして不利益につながる
ことが多い。しかし、それは目先のことだけを考えるからであって、そういう
時期を耐え忍ばねば真の前進は図れない。北朝鮮との関係においても、韓国内
の既得権者には南北統一は自分たちの利益にならないとして統一を望まない人
々がいる。
しかし、このままでいいはずがない。重要なのは、南北統一を目指すとしても、
それ以後の文明のあり方を策定するはっきりとしたビジョン、理念がなければい
けないということだ。新しい秩序をつくり出す時には、その秩序に対して積極的
に参与するという姿勢が伴わなければならない。
そこで日韓はこれまでの考え方を変える必要がある。日本人が貴んできたのは
和の精神だが、韓国の場合は『正義』だった。しかし、最近は韓国もかなり変わっ
てきて和の精神を見直している。日韓両国が共通して持つことのできる理念は何
か。 日本的な和が普遍的な和となり、韓国的な正義の観念がもっと広い正義に
なる。和と正義が一緒になるような哲学、思想を構築することができれば、それ
が人類に発信する普遍的な新しい文明のビジョンとなるだろう。
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◆アジアユニオン京都会議 2001年10月、京都市で開かれた「アジア友好
親善フォーラム」の席上、金容雲氏が提案した「アジアユニオン構想」を受け
て発足した。今後も日韓朝中の四カ国の連帯を軸に、真の国際交流と相互理解
を深めるためさまざまな民間レベルでの活動を展開していく方針という。
◆金容雲氏プロフィール 1927年、東京に生まれ、早稲田大学で学ぶ。47年、
同大学を中退して解放後の韓国に帰国。58年、渡米。カナダのアルバータ大
学から位相数学で博士号を受ける。69年帰国し、漢陽大学で教鞭をとる。韓
国の著名な数学者であるとともに、文明評論家でもある。国際日本文化研究セ
ンターなどで客員教授を務めるなど、たびたび来日。
(C)Sekai Nippo Co.Ltd(1975-) Tokyo,Japan.