「新しい文明と日本の役割」     大脇準一郎

2月16日、『現代イスラムの潮流と日本の役割』と題するシンポジュームがあっ
た。講演者(東大教授)の講演内容、「東大は西欧の学問導入のため、ヨーロッ
パの言語を習得するため、作られたもの」今こそ、西欧のパラダイムの呪縛か
ら脱却し、東南アジアや中東も含めた「新しい知の枠組みが必要である」との
講演が印象的であった。質疑応答で、「西欧は一神教だから宗教戦争が多く、
日本の多神教、自然宗教が見直されるべきではないか」との質問に、講師は
「一神教が世界人口の5割以上を占めている現実を無視できない」とのコメン
トであった。小生は、「一神教対多神教の問題と言うよりは、東洋的(日本的)
思考と西欧的(グレコ・ローマン)思考の違いの問題である」ことを指摘し
た。

小生、米国で4年間程、神学・哲学を勉強したが、最大の収穫の1つが、東西の
「存在観の相違」の発見であった。ギリシャ哲学を始め、西欧思想は、存在を
個物(実体)として捉える。東洋では、存在を関係性(場、役割)と捉える。
「存在とは、実体と関係性の2重目的的存在」と取らえるべきで、西欧は個物
(個別相)を東洋はその連体(関係性)を重視してきたといえる。文明や社会
が行き詰まるのも、見方が硬直化し、新しい、自由な発想が生まれないためで
ある。そろそろ日本人も西欧化への卑屈とアジア蔑視の傲慢から解き放たれて、
素直に自らの原点を見なおし、文明史的危機の実態態に対処すべきではなかろ
うか?

小生は、基督教神学上、未だ解決していない難問題の数々が、東洋的視点から
見れば、容易に解決されることを発見し驚愕したものである。たとえばイエス
は人か神かの論争(基督論)、三位一体論のアポリアは、東洋的関係性から見
れば、イエスは神か人かではなく、神であり、人でもある。西欧では神を高く
祭り上げて、人間との関係を遮断しているが、東洋的関係性から見れば、神と
人間は親子の関係であり、一体とは関係性(愛)において一体である。

このことは、最近の医学界、経済界、政界の新しい統合の動きを見ても言える。

日本が世界文明に貢献できる第一は、この存在を関係性(場)と見る東洋思想
的思考で西欧文明の行き詰まりを打開することである。一神教文明のアウトサ
イダーである日本が、宗教間の対話の場を新しい視点から提供することである。
これは単にどの宗教が優秀か優劣を競う場ではなく、物質文明に偏向した現代
文明をどう糺すか?現代における宗教の役割を再認識し、宗教者が先頭に立っ
て、文明の精神性を取り戻す人間復興運動の場を提供することを意味する。こ
れこそ、今日のテーマの「日本の役割」ではなかろうか?

「国を救うのは、文化しかない!」(ミッテラン)。日本の援助は、今までも
余りにも物の援助に偏り過ぎていた。もっとわが国は、文化的貢献、東西の文
化の融合、新しい平和文明の懐胎にお金を使うべきであろう。

このような話をしているうちに、小生は、35年前のある会の創立宣言文を思い
おこした。宣言文によれば、日本の危機の根本原因は、「日本が西洋文明の吸
収に忙し過ぎる余り、東洋の伝統的精神を忘れると共に、西欧文明の基盤になっ
ている西洋精神の真髄に触れることを怠ったからである。」、我々の任務は、
「ヘブライズムによる被造者意識と東洋的自然観を調和し、再び大宇宙と和解
することである。」「まず近隣のアジアの、友好国の学者と協力し、・・大宇
宙の心を自らの心としたいと念願する」。 

この文章を推敲下さった諸先生、これを強力に推進された諸先生も居らっしゃ
らない。しかし、これらの諸先輩が仰ぎ見たこの理想の光こそ、今日の日本を
照らす光明であると痛感する。

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スペングラーが西洋文明の没落を予言し、警告してから半世紀近くなるが、そ
れは今や現実となった。しかし、皮肉でもあり、悲劇的でもあるのは没落の頂
点にたち、それの最も深刻な影響を受けているのが西洋自体ではなく、極東に
ある我が日本であるということである。

その根本的原因は日本が西洋文明の吸収に忙し過ぎる余り東洋の伝統的精神を
忘れると共に、西洋文明の基盤になっている西洋精神の真髄に触れることを怠っ
たからである。従って我々は限下文明危機の頂点に立たせられることになった
のである。これは確かに皮肉であり、悲劇的である。

しかし、他面から見ればそれ故に我々こそ世界文明の危機超克の責任を課せら
れ、偉大なる使命を帯びているとも考えられるのではあるまいか。我々の使命
は明かである。

第一は学者としての本文に鑑み、真理の探求に邁進することである。真理の探
求に邁進するとは虚偽と闘うことである。

我々は学者的良心に従い、完全として彼らの虚偽、欺瞞を暴露し、真理への道
を示すべきである。

第二は学者としての真理探求への情熱をごうも損なうことなく、人間性の限界
を認識することである。

西洋においてはヘブライズムの影響の下、人は神から造られたものであるとい
う意識があった。この意識は近世以後次第に薄らぎ人間万能思想が横行するよ
うになり、そこに西洋文明没落の原因が生じたのであるが、にもかかわらず被
造物意識は今なお深く根をおろし、それが今なお西洋文明存続の支持力となっ
ている。

ヘブライズムの影響を受けていない東洋には被造物意識はない。しかしそれに
代わり人間と自然と一体、又は人間を自然の一部と見る思想があった。我々は
西洋から科学思想を取り入れるにあたりこの東洋思想を放鄭し、自然を敵視す
る自然征服の心理を持つようになりそこに自然と人間精神の無制限な荒廃をも
たらすことになった。

我々の任務はヘブライズムによる被造物意識と東洋的自然幹を調和し、再び大
宇宙と和解することである。幸いにして我々には世界89ヵ国に有力な同志がい
る。日本において学問研究に邁進する我々はまず近隣のアジアの友好国の学者
と協力し、進んでこれを世界の同志にひろめ、真理の探求を通じて大宇宙の心
を自らの心にしたいと念願する。
                    1974年9月28日 

 PWPA創立趣旨文   1974.9.28    新しい文明を語る会 1974.1.19

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比較文化論から見た日本文明の危機と希望』骨子  
                   国際企業文化研究所 所長 大脇 準一郎

1、 日本民族の生き残りパターン“和”

2、 “和”を形成せしめた諸要素

3、 和の日本文化の特質
 1) 無私 2) 妥協  3) 個別状況主義

4.日本的”和”の長所

5、日本的“和”の短所⇒危機

6、日本的“和”の希望