東京五輪の真のレガシー──チャスラフスカと日本人の50年── 長田渚左


 今から四年前、チェコ共和国の人々が日本に対して素晴らしい友情を示してくれたことを知る人は少ない。チェコ日本友好協会が中心となって、東日本大震災で被災した二都市、陸前高田と大船渡の中学生を一週間のチェコ旅行に招待してくれたのだ。
 友好協会の名誉会長であるベラ・チャスラフスカは、チェコを訪れ、運動会イベントで駆け回った日本の子どもたちに、こう尋ねた。「ユキオ・エンドーを覚えていますか?」
 三個もの金メダルを手にし、1964年東京五輪の「名花」と讃えられた体操選手・チャスラフスカ。彼女の演技は、遠藤幸雄を始め、日本選手団との友情と温かい交流の「果実」でもあった。そしてその演技によって心を強く揺さぶられた、多くの日本人がいた。
 半世紀を経て、被災地の中学生に「恩返し」として伝えられたものとは何だったのか。2020年の五輪開催国として、いま、あらためて考えるべきことが見えてくる。

おさだ・なぎさ ノンフィクション作家。NPO法人「スポーツネットワークジャパン」理事長、スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長なども務める。淑徳大学客員教授。著書に『桜色の魂──チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか』(集英社)、『復活の力 絶望を栄光にかえたアスリート』(新潮新書)、『欲望という名の女優 太地喜和子』(角川文庫) ほか多数。