オリンピックに理念を!  

 拝啓

 万物馥郁として桜の花も咲き始め、春の訪れを感じる此の頃でございます。
閣下に於かれましては、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
  日本とアジア、さらには、世界全人類の未来を見据えて、溢れる憂国救世の情で正道を 歩み続けられておられる閣下に対しまして、私はもとより、幅広い範囲の多くの日本国民が深い敬愛の念を抱いております。  

 さて、2020年オリンピックの東京開催の決定を国民がこぞって喜んだにも関わらず、最近、盛り上がりに欠ける状況が散見されます。昨年、森喜郎元首相の箱物中心、政府にもっとお金をよこせとの講演を聞き、その先行きが、さらに心配になっていました。
昨年末、野田一夫先生にご相談すると、「理念なきオリンピック」と看破され、森さんのことをお話すると、吐いて捨てるように批判され、「憂うべき現状を変え得るのは中曽根さんしかいない。」とおっしゃっていました。 先月、2月27日、野田先生を迎え、「理念なきオリンピックを叱る!」と題してお話を頂き、「どうすればオリンピックが盛り上がるのか」について夜遅くまで会合を続けました。
 そこでの結論は 64年と違うのは経済の時代から文化の時代へ移っていること、および、オリンピックは日本文明が世界史の中で役割を果たすことが出来る、またとない最大、かつ最後のチャンスであるということでありました。中央公論2月号にも、「理念なきオリンピック」というテーマが特集されました。この理念とは、文明の価値の大転換を図ることであり、このために、東京オリンピックを契機に日本が主導的立場で歴史的使命を果たすということではないか、ということが我々共通の実感であります。

  文明の大変換を図ろうとする動きは、今に始まったことではありません。思えば1974年9月28日松下正寿、福田信之、今村和男、佐藤和男、大石泰彦先生等が中核となり、木内信胤、金山正英、桑原寿二、法眼晋作先生らを顧問に迎え創立した世界平和教授アカデミー、また翌年2月、産学共同で設立した「新しい文明を語る会」(会長中島正樹)の創立趣旨文にも謳われています。

  また、これは和魂洋才をモットーとした明治以来からの我が国の宿願であり、母校早稲田の校歌でも東西文明の調和を謳っています。日本の近代化は、今も、韓国や発展途上国のモデルではありますが、残念ながら、我が国は近代化の成功に驕り高ぶり、科学技術文明の本家、本元に打ちのめされてしまいました。日本が負けたのは科学技術の競争においてであって精神文化の面ではありませんでした。大和魂に恐れ慄いた連合軍は、共産主義者まで利用してその根絶を図ったことは、ご存知の通りです。

  先日の会合で、89歳の野田先生が、ぽつりとおっしゃいました。「父親に恥かしくない自分でありたい。」今、西欧近代化文明によって消えつつあるかに見える命のパイプ、東アジアに共通する縦の家族文明(忠孝烈)に注目し、日本全国だけではなく、韓国や中国をも誘って世界からのお客様を「おもてなし」をし、病める現代文明の桎梏から人類を解放し、万民人類鼓腹撃壌の王道楽土建設の夢の実現に向かって邁進する時ではないでしょうか。 坂中英徳先生は、移民受け入れのチャンス、出雲の小松社長は地方創生のチャンス、フスタフの抱社長は芸術復興、近隣諸国との友好関係を結べるチャンスと捉らえていらっしゃいました。それぞれが自分ならではの持ち味を生かしてお客様を「おもてなし」することによってオリンピックは盛り上がるのではないでしょうか!閣下の肝いりでできた国際日本文化研究所が長年の蓄積を発揮する秋が来ているように思われます。

このような歴史的大英断の舵を切ることが出来るお方は、小生の知る限り中曽根閣下を除いてどこにも存じ上げません。無礼を承知で一筆献上することをお許しください。
3月28日には、慶応義塾大学で先生方と提言書作成の作業部会を開催する予定です。
どのような提言書にまとまるのか、どこに提言すべきかは、視界不明瞭ですが、現代に生きる国民の一人として、有志と共に人事を尽くす所存であります。

現世に生きる我々が、この責務を果たすことは、我が国の長い歴史の中で引き継がれてきた先人達の意思と遺志を継承することであり、また、先の大戦などで犠牲になられた方々に報いる真の供養であり、追悼であると考えるものであります。

閣下のご玉体のご健勝のほどをお祈り申し上げております。
                                                 敬具
  平成28年3月13日 
                  地球市民機構 副理事長
           NPO未来構想戦略フォーラム 代表        大脇 準一郎 拝

敬愛する中曽根康弘閣下へ