「日本再建のために!
―新しい国家ビジョンの創造と実践―」

 

 
国際企業文化研究所 所長 大脇 準一郎  
 

最近、様々な折に、国家ビジョンの必要性を訴える声に出くわすことが多いが、
一向に深められた内容に出会ったことが無い。まとまった形で提示するには余程
のエネルギーを要する骨の折れる仕事であるからでもあろう。内閣の機関や政党、
民間の研究機関にそれらしきものを探しているが、いまだに本格的内容に出くわ
したことも無い。小生も日頃、瑣末な仕事に追われて体系的な提言にまとめる時
間を見いだせずにいるが、日本が求める新しい国家ビジョンは少なくとも次のよ
うな内容を考慮したものでならなければならないと思う。

第1に、国際的視野の問題である。今、教育基本法改定が議論され、伝統と愛国
心の涵養が強調されることは勿論であるが、さらに一歩進めて、教育の目標を
「国家に有為な人材育成」から「国際社会に貢献する人材育成」に大転換すべき
である。なぜなら明治から百数十年余たった今日、科学技術の驚くべき発展は、
宇宙船地球号、地球村的環境の造成をもたらし、かつての日本は世界となってい
るからである。誤解を招かないようにまず申し上げておきたいのは、決して国家
の役割を否定するものではないが、かつての廃藩置県が廃国置州(要:適切な言
葉)として新しい角度から国家を見直す必要性である。この意味で一旦自国文化
を相対化グローバルな普遍的観点から自国文化を見直す比較文化論的視点が役だ
つであろう。

第2に日本独自の平和の戦略の確立の必要性である。憲法第9条が論争の火種とな
るが、この根底にある問題、世界平和への理念と戦略の確立である。現憲法の平
和理想主義に偏った現憲法は、生命第一主義、自国第一主義の俗物国家への転落
に加担している。戦争形態が、正規戦争からゲリラ・テロへと変容し、武器形態
も大量破壊兵器の発達した今日、世界から戦争を根絶する道は何であろうか?国
内外の南北の格差を解消するための人間性開発、人道的奉仕活動の役割が軍事的
手段と共に対等に重視されるべきと考える。このために崇高な理念と具体的戦略
の確立、実践を通しての日本独自の平和の戦略の展開を提言することである。思
うにこの平和の理念は日本の古来から受け継いできた伝統、大和の精神(控えめ、
奥ゆかしさ、包摂性)、を強調する母性的精神、武士道精神(生死を超えた人倫
の道、潔さ)に根ざした理念であると考える。

いずれ詳細については、述べる機会が到来した時のこととして、第3に、その実
行の主体は誰であろうか?小生は20歳前後の青年と60歳以上の高齢者であり、
その拠点として大学に重要な役割があると考えている
。物量に恵まれ過保護状況
にある日本の青年に、「青年よ!荒野を目指せ!」と叫びたい。貧困や飢餓、疾病
に悩み、家も無く、教育の機会の与えられない人々の中に飛び込んで、そこで何が
出来るか、挑戦して欲しい。効果を挙げるには、海外青年協力隊の半年程の付
け焼刃訓練ではなく、20数前、糸川英夫が遺言しているように、海外組みと国内組み
に分けて小学生からから準備をさせることで肝要であろう。夢の必要なのは
高齢者にとっても同じである。培った経験、技術を世界に役立てるには青年
以上に現地に役だつ場合が多い。これらのビジョンを実現するために数々の障碍
を克服しなければならない。小泉内閣の構造改革もこの方向に沿ったものである
ことを期待する。

1)上記のボランティア制度にある一定の期間(2-3年)従事した者には外務省
・文部科学省等に勤務する資格または高官の審査条件となる資格、または相応
の社会的優遇条件を与える。誤ったエリート意識、奉仕精神に欠ける外務官僚、
文部官僚の現状は早急に改革すべきである。


2)国際化の第一段階明治維新は政府を代表する一部高官の国際化、第二の戦後
の国際化は企業レベルの中間層の国際化、今日進行している第三の国際化は国民
大衆レベルの全面的国際化であり、100年前の欧化政策を施行する時代錯誤の特
権意識を持つ外務省は国際化の障害、無用の長物となっている。総務庁・宮内庁
・外務省を統合し国務省とすることも考えられ得る。角度を変えて見るならば、
明治維新以後、第一の技術・産業革命、大戦後の第二の民主政治革命に続き、現
在進行している第三の革命は文化・教育革命であり、目に見えない日本人の心、
思想(世界観)・哲学革命あると言える。
国際社会での共生をはかるためにも特
にプラティカルな語学教育が緊急な課題と思われる。

3) 文部省(教育)と科学技術庁(研究)の統合は望ましいことであったが、
今日の大学の最大の課題は学問の社会的還元(奉仕)である。大学と経済産業省
等の協力関係が今試みられるが、今後の課題である。わが国は国際貢献を国策と
し、内閣の横断的統合機能を持った機関、海外協力省(国際協力省)の設立が望
ましい。ODAも物の援助から教育援助で、人材育成に移行すべきである。この
ドラスティックな変革には、何よりも首相のリーダーシップが問われている。机も
無いソファーだけの会議で突っ込んだ議論ができるであろうか? またキャンプ
デッビトのように、閣僚がもっとリラックスした環境で時間をかけ、ビジョンを練り、
政策の整合性をつめる場が必要に思われる。特に各大学は教育特区構想等を活用
し、国際協力への大胆な実験(世界への奉仕)、未来への挑戦をし、新しい日本
創造の橋頭堡・若者や高齢者からなる平和の戦士達の発射基地となることを期待
したい。           以上
(2,003年4月3日 2005年9月21日加筆)    ワードはこちら


「日本の教育界の危機と未来構想」 より

1)国際貢献ボランティア制度の国策化
  (物の援助から人の援助、文化・教育的貢献へ)


 かつてのODAは物援助に偏り、プロジェクトが終了すると野ざらしになることしばしば問
題となって来た。これからはODAを物の援助から人への教育投資、ソフトへ重点を移し、
総合的国際協力の大転換を図る。この教育へのドラスティックなシフトにより、現地に尽
きせぬ泉のごとく人材が育ち、その効果は半永久的に持続することが期待できる。

 1960年代ケネディーによって遂行された平和部隊のように、国策として国際ボランティア
を世界へ派遣することである。今や海外青年協力隊も1000人台まで減っているが、10万
人はおろか、200万人台まで送る。日本だけだはなく、日韓共同プロジェクトする。将
汗をかく。未来へ向けての共同作業を通じて3国の青年の間に理解と信頼、生涯に渡る友
情も芽生えることであろう。

 日本には徴兵制はなく、自衛隊は国軍かどうか未だに論争中、韓国の青年は徴兵2年間を
国軍に入るか海外ボランティアにでかけるか選択制度にするとさらに容易である。海外の
みならず事情によっては国内でもボランティアを選択できる余地を残しても良い。ただし、
外務省、文部科学省に入所希望者、特に課長以上の要職を希望する者は海外ボランティア
を必須、高級官僚を目指すならば、3年コースを有資格条件とする。

  このプロジェクトを通じて隣国間の平和への雰囲気作り、日本人としての誇り、
コミュニケーション能力、問題解決能力が自ずと身に付くことは必定である。また足りな
いところを大学に戻って集中的に学べばよい。問題意識を持って学べば、学習効果も上が
る。何よりも人生設計、己のバックボーンを形成する良い機会となるであろう。内向き志
向に青年に夢とロマンを与える真に日本の起死回生政策であると言えよう。  


) 国際社会に貢献できる有為な人材を養成する教育機関の設置 

各省庁や各企業という小さな枠にとらわれた発想では、諸外国や、その企業などに共感を
持たれることは、至難の業である。それには、色々な思想、文化や宗教を持った国々や人々                                                                        
と、大局的視野に立って的確に意思疎通できる能力を持った教養豊かな人材の輩出が強く
望まれる。

 上記のように国際ボランティアを数十万はおろか、数百万単位で送りしてこそ、世界の潮
流を変えることが出来る。それには人材養成の拠点が必須である。既存の大学の更なる改
革も期待したい。米国に有名大学の大学院は国際色豊かで、4年生の大学の10倍以上の
学生が学んでいる。4年制のどこの大学に入るかは問題なく、どこの大学院で自分のやり
たい課題を研究できるかに焦点を当てている。日本とは圧倒的な情報量の違い、図書館も
24時間オープンの大学も多い、大学院と4年生の違いは、自ら研究課題を見出せるか、
ただ習うだけかの違いである。日本は時代遅れの産業予備軍の兵士の輩出から、高度情報
社会をリードできる質の高いパイオニアを輩出すべきであろう。世界的大企業の幹部は、
修士は当たり前、博士号を持つ者も多い。日本の大学が旧態以前とした現状に甘んじてい
るならば、早晩企業の国際競争に落伍するのみならず、発展途上国からも見向きもされな
くなるであろう。

 国際教養大学の快挙にもろ手を挙げて拍手を送るとともに、経営危機にある大学も方向転
換して時代的、社会的ニードが何であるかを再検討して、東大を超える、第2、第3の国際
教養大学を目指して頑張ってもらいたいものである。                
        以 上               
                   2012.8.21               大脇 準一郎 

参考⇒「日本の教育界の危機と未来構想