年頭所感 廣野良吉  Wordはこちら⇒

                                       2023年元旦

今や正に世界の国々・人々が恒久平和、世界人権宣言、貧困撲滅、地球環境保全、人間の安全保障を高々に謳った第二次世界大戦後の世界に最大の危機が訪れているといってよいでしょう。

しかし、この危機は一方で危険(Danger)・脅威(Threatening)であると同時に、他方では機会(Opportunity)・好機(Chance)です。私たちの先輩と自然がその歴史を通じて現代社会に生きる私たちに提示・提供してくれている貴重な挑戦(Challenge)・教訓(Lesson)です。いたずらに「不安・不確定」と叫び嘆くのではなく、直視して私たち現代の市民社会(Civil Society)が構築すべき新しい文明(Civilization)の到来として悦ぶべきことです。資本主義対共産主義、民主主義対専制権威主義という二律背反的な旧態文明思考(Ancien Regime)を振り払って、新しい時代(Neue Zeitung)を切り拓かねばなりません。正に21世紀のコペルニクス、ジャンヌ・ダークの到来です。

 特にロシア・ウクライナ戦争でロシアによる核使用の脅威が高まっている今日、戦後平和憲法と国連憲章の下で大切に護ってきた日本国民の反核・反戦・平和、軍縮への確固たる誓いを米中ロシアを初め世界の人々へ力強く伝えてほしいと思います。来年は我が国がホスト国として広島でG7の首脳会合が開催されます。Better Late than Neverの格言に基づき、岸田首相が核廃絶、反戦・平和を世界へ訴えられることを祈念してやみません。

米国ジョー・バイデン大統領が2020年12月に109か国と台湾、欧州連合を招いて主催した「民主主義サミット」を今年3月再度召集すると発表しています。

権威主義から民主主義体制への道程は、これまでの歴史が証明するように必ずしも一本筋でもないし、一方通行(One-way street)でもありません。来年3月バイデン大統領が主催予定の「民主主義サミット」では、世界の国々を民主主義国家とか専制主治機構構築に関わる諸困難・課題について共に考え、協力し合うことが求められます。それがたとえ道

的責務であり、世界における民主的統治機構の促進と普及に貢献すること義・権威主義国家などのラベルをはるのではなく、国連と共催ですべての国々・地域の首脳に呼びかけて、「人民の、人民による、人民のための国」の建設過程で直面している統

になると考えます。      参考:A. トインビーの名言

本文

尊敬する友人の皆様へ

明けましてお目出とうございます。

皆さまには新型コロナウイルス・パンデミックにもかかわらず、ご健康で安らかに正月元旦をお迎えになったこととお慶び申し上げます。 

先月23日は私たちが最も敬愛する上皇陛下が89才の誕生日を迎えられました。ご進講をはじめ皇居内外にて幾度かご挨拶する機会がございましたが、2019年4月30日生前退位なされるまでは日本国の象徴としての激務を日々全うし、先の戦争惨禍で犠牲となった我が国民のみならず、世界のすべての人々の慰霊のために、国内外での旅を続け、国民一人一人の健康と安全・福祉、さらに世界の平和を希求なされてこられた陛下のお姿は、日本人にとって最も理想的な人間像であり、中学生として日々戦火に晒された同世代の私たちにとっては深い共感・感慨を覚えます。今後も末長くご健康に留意なされて、美智子上皇后、天皇家のご家族の皆様と共にお幸せな日々をお迎えなされるよう、心から祈願してやみません。特に喜寿をお迎えした以降も、東日本大震災では被災地域の皆さまに心を寄せ、罹災者家族を初め、病弱障害者のお見舞いや子どもたちを励まし続けてこられた上皇陛下と上皇后に対しては、日本国民すべてが心から敬愛しています。 

なお、英国女王エリザベス2世は本年9月8日スコットランドのBalmore城で安らかに96年のご生涯を全うなされました。ご逝去を心からお悔やみ申し上げると共に、1952年から今日まで70年の長きにわたって英国民はもちろん、世界の人々の尊敬と親しみの中で数々の王室改革の偉業を断行なされ、王家と英国民の一体感を強固なものとなされたことに敬意を表すると共に、新たに英国王になられたCharles III世の末永い世とQueen Consort (Camilla)のご健康を祈念申し上げます。 

さて、昨年はカタールでのFIFA主催のワールドカップ大会で世界の人々の興奮と感動を沸かせた年でした。FIFAがサッカーの世界選手権大会としてカタ一ルを選んだことに対しては、人権重視諸国から大きな批判がありましたが、スポーツ選手たちの見事な活躍は老若男女すべての人々に感動を与えてくれたことに感謝しています。日本選手代表団はベスト8目標には達することができませんでしたが、ベスト16に残り、次回の世界大会での飛躍に望みを託すことができました。森保一監督を初め選手の皆さまの奮闘に対して唯々感謝あるのみです。 

2022年は当初から国内外で予期せぬ出来事が勃発しました。昨年のミャンマーにおける国軍のクーデターやシリヤ、アフガニスタンにおける内戦の記憶が冷めやらぬうちに、2月にはロシアによる隣国ウクライナへの軍事侵攻が始まり、中央アジア、アフリカ、中南米大陸における力による政権保持・交代が次々と報道され、世界各地で権威主義思想・体制の浮上と民主主義体制の後退を憂慮する声が高まってきました。米国フリーダムハウスのFreedom in the World 2022によれば、1990-2021の期間に自由民主主義国家(A)の数は64か国から83か国へ増えましたが、中間の半民主国家(B)は50から56へ、権威主義国家(C)も50から56ケ国へ増大しています。第一生命経済研究所資料によると、GDP規模でみたA国家群は同期間に83.4%から63.6%へ、Bでは10.3%から10.0%へ低下しましたが,Cは6.2%から24.6%へと著しい増加をみています。また人口比でみると、同期間にAは39.7%から20.2%へと激減し、Bは26.8%から41.1%,C群は 33.4%から38.7%へと増加しており、過去30年間に自由民主主義諸国の国際社会における地位は年々低下し続けています。この国際動向と並んで特に注目を引いているのが14億26百万人の人口を擁する中国であり、今や米国と並んで世界の2覇権大国として君臨しており、その影響力の拡大に躍起となっています。

台湾の非営利団体「台湾民主実験室(DTL)」による直近の「チャイナ・インデックス(中国の影響力指数)2022」(調査期間は一昨年3月から昨年3月までで、82カ国の政治、経済、軍事、法、外交、学術、メディア、社会、技術の計9分野に及ぼす中国の影響を調査)によると、その影響力は主に広範な経済協力によるものであり、パキスタン、ラオス、スリランカなどでみるように、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」事業の核心であるインフラ投資の飛躍的な拡大です。パキスタンのグワダル港と中国の新疆ウイグル自治区の間の2800キロ区間に鉄道とパイプラインを建設する「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」事業は、その典型です。昨年10月ラオスへ出張する機会があり、一昨年末に開通したラオス中国鉄道で、首都ビエンチャンから旧首都ルアンプラバンへと旅しましたが、ラオスや近隣諸国からの旅行者で満席で、人々は鉄道の両側に延々と続く農場、牧場、森林や開通したばかりの見え隠れするラオス中国高速道路を見ながら楽しんでいました。

 21世紀に入り、中国の途上国への浸透は過去に見たような共産主義イデオロギーの輸出・宣伝ではありません。しかし、貿易・投資・経済技術協力を通じた影響力は多分野にわたっており、チャイナ・インデックスによると中国の影響力は東南アジアで最も大きく(カンボジア2位、シンガポール3位、タイ4位、フィリピン7位、マレーシア10位)、これらASEAN諸国と長年密接な政治・経済関係にある日米、西欧諸国にとっては大きな競争相手の出現であり、脅威にさえ感じている趣もあるといってよいでしょう。なお、中国の影響力は2001年創設の上海協力機構(SCO、現在9カ国加盟)を通じて中央アジア諸国ではもちろんのこと、近年中南米・アフリカ大陸にも及んでおり、同上台湾調査ではペルーや南アフリカ共和国が5位になっています。昨年12月9日習近平中国国家主席はサウジアラビアの首都リアドで開催された湾岸協力会議(GCC)6か国との首脳会談(第1回中国・アラブ首脳会議)で経済技術文化協力(孔子学院を含む8大共同行動)を約束しました。また、日米EUに習ってAU加盟諸国とも既に2000年から3年毎に首脳会議(中国・アフリカ協力フォーラム=FOCAC)を主催し、鉄道・港湾・都市開発を含むインフラ整備、農鉱業開発を中心とした大型の経済技術協力を実施しており、これら「一帯一路」事業は途上国、特にその指導層や利害関係者から大いに歓迎されていますが、市民社会からは「債務の罠」を通じた中国による「21世紀新植民地主義」と警告・批判を受けいます。しかし、これら多くの国々では権威主義的政権が樹立されており、今後益々世界の自由民主主義圏への大きな挑戦となっていくといってよいでしょう。その意味で近年飛躍的経済成長を続けており、今年から来年にかけて世界最大の人口を抱える「最大の民主主義国家」として定評あるインドを構成国とするQUAD(オーストラリア、インド、日本、米国、2019年最初の外相会議、2021年オンライン首脳会議)は、2018年署名・発効の環太平洋経済パートナーシップ協定(TPP11)と共に、G7を初めとする自由民主主義諸国にとって益々重要となっていくでしょう。

広く国際社会では、SDGsと気候変動に関する国際的取り決めである「パリ協定」が2015年末に採択され、昨年には核兵器禁止条約が発効しましたが、多くの国々で逆行する政治的動きや政策決定がなされており、東西・南北関係の緊張が高まり、世界全体で失業・生活苦を訴える貧困人口が本年初めには10億人を超え、国内外難民も1億人を突破するという国際政治経済環境の悪化が続いています。さらに異常気象が世界各地で観察され、暴風・豪雨、河川・土砂崩れによる人命や物理的被害が急増しており、現状を放置すれば2030年までに産業革命後の大気温度の摂氏1.5度以内の抑制、2050年までにネットゼロカーボン目標の達成も不可能と「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は予測しています。このような国際的警告にも拘わらず、わが国を含めて世界の多くの原発国では、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど豊富な自然エネルギー資源活用への大幅かつ急速な転換よりも、原発稼働年限の延長、CCS開発、アンモニア混焼発電などの研究開発・試運転へ希少な人的資源や財源を投入することを発表していますその上SNS・情報化が進む中で、意図的な「偽情報」や不作為に基づく「誤報」も飛躍的に拡散し、人々は一層の不安を募らせています。第2次世界大戦後国連憲章の下で世界の大国や政治的独立を果たした開発途上国が対立と妥協の中で構築してきた国際政治経済社会環境秩序体制が逐次亀裂しつつあります。東西・南北に関係なく世界各国で政治経済指導者が世界的・中長期的な視点よりも、目前の自国の短期的な利害を優先する中で、「希望の世紀」(Century of Hope)といわれた21世紀の将来が益々流動的・不確定になってきています。今や正に世界の国々・人々が恒久平和、世界人権宣言、貧困撲滅、地球環境保全、人間の安全保障を高々に謳った第二次世界大戦後の世界に最大の危機が訪れているといってよいでしょう。

かし、この危機は一方で危険(Danger)・脅威(Threatening)であると同時に、他方では機会(Opportunity)・好機(Chance)です。私たちの先輩と自然がその歴史を通じて現代社会に生きる私たちに提示・提供してくれている貴重な挑戦(Challenge)・教訓(Lesson)です。いたずらに「不安・不確定」と叫び嘆くのではなく、直視して私たち現代の市民社会(Civil Society)が構築すべき新しい文明(Civilization)の到来として悦ぶべきことです。資本主義対共産主義、民主主義対専制権威主義という二律背反的な旧態文明思考(Ancien Regime)を振り払って、新しい時代(Neue Zeitung)を切り拓かねばなりません。正に21世紀のコペルニクス、ジャンヌ・ダークの到来です。

 翻って国内政治では、国家安保体制の改革と国防費のGNP2%への引き上げに伴う国民の税負担増、膨張する赤字財政残高、大半の後期高齢者へ負担増をもたらす社会保障制度の改悪、核廃棄物安全処理未解決の中での既存原発の再開と新しい小型原発(SMR)の増設案、沖縄の米軍基地恒久化等は、国民の間で賛否両論を浮き立たせており、諸々の既得権益者間の対立の激化と相まって、政治に対する国民の関心・関与を高める効果は否定できませんが、同時に拙速政治に対する不信を募らせています。また有権者によって同じく選出された野党議員の要請を軽視(時には無視)した連立与党独走の国会運営では、大島前衆院議長も懸念していたように、政党政治への不信さえ煽る状況が生まれていることも事実です。さらに、国内経済では米国連邦準備銀行制度(FRB)によるフェデラルファンド金利や欧州中央銀行(ECB)の政策金利の度重なる引き上げにもかかわらず続行する日銀の超金融緩和政策とそれに伴う519兆円(2022年6月末)を超す日銀の市中国債保有残高は、年金運用機構による株式・ETF等の売買の拡大と共に、国内外における我が国金融財政政策・金融市場への不信をも募らせ、昨今では海外投資家の日本公社債・株式の売買基調はマイナス(売り)となっています。所謂「投げ売り」(distress selling)は出ていませんが、中長期的には我が国経済の懸念材料が増えています。

1991年のバブル経済の崩壊に伴う官民両部門における婦女子労働者を主力とした派遣労働者や契約労働者の大幅導入による平均賃金水準の低迷と個人消費支出の抑制は、ロシア・ウクライナ戦争と西側諸国による対ロシア経済制裁と急激な円安に伴う食糧、原材料・燃料価格など物価高による国民の生活苦の増大と共に、過去30年に及ぶ我が国経済の長期低成長からの離脱を極めて困難にしています。岸田内閣の成長と分配の好循環を目指した「新しい資本主義」と「貯蓄から投資資産形成へ」の掛け声にもかかわらず、2021年度の民間企業内部留保は500兆円超 10年連続で過去最高更新www.asahi.com/articles/ ASQ913FRVQ91ULFA004.html)しており、直近では従来わが国農漁業や工業・サービス産業部門の中小企業労働力不足の解消に貢献してきたベトナムを初めとする途上国からの「実務実習生」の確保さえ困難な状況が生まれており、労働力不足、人口減による日本経済潜在力の低下懸念は一層深刻化しつつあります。  

外交関係では、ここ数年来ソウルの日本大使館前や名古屋市で開催された愛知県後援の「あいちトリエンナーレ」(2019年8月)で韓国の慰安婦像が設置されると、名古屋市長を巻き込んだ国内抗議集会が各地で報道されて、日韓関係は政治的試練に直面してきましたが、本年の韓国における尹錫悦大統領政権の誕生により、これまで日韓関係をこじらせてきた「従軍慰安婦問題」と「徴用工問題」については、両国政府間の協議に基づき一応の区切りがみえてくることを大変嬉しく思っていました。しかし、今回の岸田内閣による防衛・安全保障関連3文書の採択への韓国内での複雑な政治的反応が日韓関係を再びこじらせるのでないかという不安が日韓両国のみならず、同盟関係にある米国でも台頭しています。

また、我が国は近年中国がわが国の対外経済関係で最も重要になってきている中で、米国、豪州、ASEAN諸国、インド、その他関係各国と協議して新たな「経済安全保障の視点」に配慮したインド太平洋戦略の在り方を模索しています。この新たな模索は、元々ASEAN諸国が領有権を主張し、国際法廷が国連海洋法違反と断定した中国による南シナ海南沙諸島などの一方的埋め立てや私たち平和を愛する国民大衆にとって脅威的な台湾海峡や東シナ海における米中2大覇権国間の競争激化と尖閣諸島をめぐる中国海警局の武装大型船舶の領海侵入に端を発したものです。しかし、長年の米中・米ロ相互不信と近年の対立関係の中で、我が国のこの外交戦略をも脅威として中国、北朝鮮、ロシアは、近年核兵器、超音速長距、離弾道ミサイルなど軍備と国軍兵力を強化し、空軍・空母艦隊の実弾演習と対潜水艦演習む合同演習を西太平洋で繰り返しており、東アジアの安全保障環境はますます厳しくなりつつあります。これら軍拡・核武装や領海侵入・威嚇が潜在的に持つ紛争激化を憂慮している我が国は、今後も一層各関係諸国に働きかけて、これらの国々が「自衛力・国防力」の強化こそ国家間の平和・安定に資するという米ソ冷戦体制期と近年再浮上している危険な幻想の「非」を改めて認識し、あらゆる二国間、多国間交渉を通じて緊張関係の平和的解決に努めるよう、当事国を含めて国際社会へ力強く訴え続けることを念願してやみません。部「日本政府は独島(編集部注・けにもならないことを明確に自覚すべきだ」との報道官論評を

戦後日米同盟関係が樹立されて早や4分の3世紀が経過し、日米間の政治経済関係の深化のみならず、国民大衆レベルで人的交流が一層高まっている中で、日米関係の安定性を当然と考える戦後生まれの国民が大半を占めるわが国ですが、日米戦争を身をもって体験した私たち世代や先輩の日本人にとっては、2016年安倍総理がオバマ大統領とハワイ・ホノルルで会談した際にオバマ大統領がその記念演説の最後で述べた言葉が今一層重くのしかかっています。「国も、人も、自分たちが受け継ぐ歴史を選ぶことはできません。しかし、その歴史から何を学ぶかを、選ぶことはできます。」この言葉の真意を汲みとり、そし特にロシア・ウクライナ戦争でロシアによる核使用の脅威が高まっている今日、戦後平和憲法と国連憲章の下で大切に護ってきた日本国民の反核・反戦・平和、軍縮への確固たる誓いを米中ロシアを初め世界の人々へ力強く伝えてほしいと思います。来年は我が国がホスト国として広島でG7の首脳会合が開催されます。Better Late than Neverの格言に基づき、岸田首相が核廃絶、反戦・平和を世界へ訴えられることを祈念してやみません。 

近年の我が国の内外政策は、一部既得権者の排他的権益や内向きな復古的思想を重視している姿が顕著になりつつあるという印象は、小生だけにとどまらないと思います。世界の経済、政治、社会、環境、芸術文化がグローバル化し、多様性・包摂性が世界の人々の普遍的価値として積極的に受け入れておる中で、1950年代から90年代にかけて徐々に培ってきた日本国民の国際的視野も、近年各地におけるヘイトスピーチにみるように、急激に萎んできていることを大変危惧しています。オバマ大統領が先の真珠湾での記念演説で強調された「私たちは、内向きに駆られる衝動に抵抗しなければなりません。異なるものを悪者扱いにする考えに立ち向かわなければなりません。」という信念をわが国民は今こそ謙虚に受けとめてほしいと願っています。多極化する国際政治経済環境の中で、全方位外交重視から離れて、狭義な国益や世界の対立・分断関係に資する特定諸国との友好関係を優先する政権与党の一部幹部・国民の姿勢は、平和憲法の下で国際平和愛好国として戦後築き上げてきた我が国の国際的地位を一層弱体化することになるのではないでしょうか。

なお、米国ジョー・バイデン大統領が2020年12月に109か国と台湾、欧州連合を招いて主催した「民主主義サミット」を今年3月再度召集すると発表しています。第1回会合の主題は反権威主義、腐敗の排除、基本的人権の尊重・確保という世界の圧倒的多数の人々が熱望するテーマでしたが、招待されなかった中国、ロシアはもちろんのこと、米国内のみならず多くの参加国がらも「世界の分断」に拍車をかけるという懸念が表明されました。昨年の新年のご挨拶でも言及したように、民主主義価値観の基本が自由、人権、平等、法の支配、福祉の向上にあると単純化すれば、米国を含めていずれの国でも民主主義国家体制への移行は長い道程であり、未だ完結していません。先進国も途上国も長い間に形成された文化的・宗教的伝統を背負いながら、自国民が共有する「価値観」に基づいたいわば「自前の民主主義」(Self-owned, indigenous democracy)体制の形成を模索しつつあると言って良いでしょう。権威主義から民主主義体制への道程は、これまでの歴史が証明するように必ずしも一本筋でもないし、一方通行(One-way street)でもありません。来年3月バイデン大統領が主催予定の「民主主義サミット」では、世界の国々を民主主義国家とか専制主義・権威主義国家などのラベルをはるのではなく、国連と共催ですべての国々・地域の首脳に呼びかけて、「人民の、人民による、人民のための国」の建設過程で直面している統治機構構築に関わる諸困難・課題について共に考え、協力し合うことが求められます。それがたとえ道半ばであろうとも「民主主義国家」として自認する米国や日本、その他国連加盟国の国際的責務であり、世界における民主的統治機構の促進と普及に貢献することになると考えます。 

最後に、私たちには昨年女性のひ孫が誕生し、本年孫娘が結婚して、総数13名となりました。お蔭様で全員健康な日々を過ごしています。長男・次男家族と孫家族は全員東京に在住で、時々私たち老夫婦も団欒を楽しんでいます。二人の孫息子たちは独身生活を謳歌しているようです。 

2023年を迎えるにあたってご皆様ご家族の健康を祈願すると共に、「持続可能な開発目標(SDGs)、2016-30年」に謳われているように、貧困撲滅、人権擁護、格差解消、ジェンダー平等、若者の前進、地球環境の一層の保全、平和と繁栄等をもたらす佳い年になることを、地球市民の皆様と共に祈願して、新年のご挨拶に代えたいと思います。来年も引き続きよろしくお願い申し上げます・

                                        廣野良吉・貴美子

参考:A. トインビーの名言