「2030年日本再生のシナリオ」(文芸春秋新年号)にコメント
大脇準一郎、坂中英徳氏(移民政策研究所所長)、進藤榮一氏、小松昭夫
氏、久山純弘氏ほか 参加者コメント、後フリーディスカション
(要旨)
まさにいま、長期的な時間軸を持って、大きな歴史の流れの中で日本の立つ位置を考え、日本
社会の今を捉え直す必要がある。「ボトム」を見据え、どのような国家ビジョンを持つべきか、
が問われているのです。
「時間軸なき政治」との決別
物心のついたばかりの今の子供たちが成人した頃が2030年です。今から16年後の日本─ その
くらいの時間軸をもって問題を見据え、政策を作る。「時間軸なき政治」との決別は、政界だけ
でなく有権者まで巻き込む、日本の大きな転換を図る試みとして考えるべきなのです。
日本アカデメイアの取り組み
こうした基本認識に立ち、私たち日本アカデメイアは、「長期ビジョン研究会」を立ち上げま
した。
研究会は、五分野にわたります。
まず、第1は、「日本力」グループ(共同座長・岡村正、福川仲次)です。日本はどのような
国であるか。そしてその潜在力からどのような国になれるかという方向性を見出そうとしていま
す。日本という国のプランティンク戦略から世界に発信していくアジェンダ(課題)設定まで、
幅広いメンバーで議論を進めています。
2つ目は、「国際間題」グループ(同・茂木友三郎、北岡伸一)です。外交分野を話し合い、
日米同盟の将来像、東アジア地域での日本の役割など、日本がめざすべき国の方向性を議論して
います。
3つ目は、「価値創造経済モデルの構築」グループ(同・長谷川閑史、坂根正弘)です。日本
発のイノベーションをいかに起こすか。技術で勝っても事業で負けると部楡される日本が技術で
も事業でも勝って、将来にわたって成長するにはどうすべきか、という課題に取り組んでいます。
4つ目は、「社会構造」グループ(同・演田純一、清家篤)です。日本社会の基本理念を根本
から問い直し、国民一人ひとりが社会とどのように関わりを持ち、責任を果たすべきか検討をし
ています。
5つ目は、「統治構造」グループ(同・大橋光夫、佐々木毅)です。政治、特に国会の改革を
目指しています。どうすれば政治のトップが正しい決断ができるか。国家の方向性について適切
かつ迅速な決定をできるようにするのがテーマです。 このテーマについては、日本アカデメイ
アの有志六人による「『国会改革』憂国の決起宣言」(本誌2012年10月号)と題した論文を発表
しました。首相が長期的な視野に立って、政策を考えられるような時間的余裕を与えるのが目的
でしたが、その結米、各党が試案を提示するなど国会でも国会改革の気運が高まったことは周知
の通りです。
問題提起─ 2030年を超えて ─
そういった決意の下、13年12月18日には、各グループの中間報告と対外発信を目的に
「第1回アカデメイアーフォーラム」を開催することになりました。14年から、15年4月を
めどに最終報告を取りまとめます。ここでは、日本が国家的ビジョンを立て直すため、中期的に
取り組むべき、6つの具体的な問題を提起したいと思います。
Ⅰ、世界の視点で日本をデザインせよ
まず、国家戦略として、日本国家そのもののプランティンクに取りかかることです。経済、科
学技術、歴史、文化、伝統などの視点から、日本の強みと弱み、さらには潜在力について。棚卸
し”を行い、総点検するのです。内側からだけだはなく、外からどう見えるのかという視点も忘
れてはなりません。その総括を通じて、世界の視点から日本をデザインし直す。「日本力」グルー
プの取り組みは、その一環として位置付けられています。
Ⅱ、対外発信の抜本改革を
2つ目は、世界に対する日本の発信力を根本から見直すことです。日本はこの分野にあまりに
無頓着でした。日本の立場や考え方を発信することや、危機管理の際の広報の体制が未整備のま
ま来てしまったのです。
Ⅲ、人口減少社会の国家戦略を立てよ
人口減少が進むことにより、医療や教育など生活基盤は崩壌していく。地域コミュニティ機能
も喪失する。人口減少が本格化する中で、人々の生き方、働き方、地域や都市のあり方を根底か
ら再考せざるを得ないのです。
各省庁から上がってくる政策は、目先だけを見た、散発的、かつ気休め的なものが目立ちます。
人口減少を食い止め、反転させる特効薬はないことを大前提として議論することも重要です。気
移りしている間に事態は悪化し続けます。国家として最も重いテーマですが、縦割り行政による
政策の積み上げを越えた、息の長い国家プロジェクトを国家戦略として進めるべきです。
第Ⅳは、イノベーションへの取り組みを強化ことです。
価値創造を実現するために、より自山な貿易、投資環境を実現し、もう一度、日本という国を
開く。
さらに、「技術で勝って事業でも勝つ」という視点も忘れてはなりません。日本の高性能ス
マートフォンがiPhone惨敗しているように、いくら優れ た技術が生み出せても、事業として成
功しなければ意味がない。
Ⅴ、社会を引っ張る「中核眉」を発掘・育成せよ
5つ目は、社会の担い手の問題です。口本社会の新しい姿を体現して、各分野を牽引する中核的
な人材を創出しなくてはなりません。
Ⅵ、国会・政治改革を推進せよ
最後は、政治の課題です。日本にはびこる「短期的な思考」が最も顕著に表れているのが政治
の世界でしょう。
また、長期的課題に対応しうる「機能する政府」を創出するために、内閣官房、内閣府、省庁
体制のあり方、大臣、副大臣、政務官のあり方をもう一度点検する必要があります。橋本行革で
大臣の数が少なくなり、国会の委員会も大括りとなったため、かえって国会審議が回らないとい
う事態も起きている。この問題は、2030年という先の話ではなく、短期で決着を付けるべき課題
です。
そして、最後に残る課題が「政党」です。政治的リトダーとなるべき人材をプールし育てる責
任は第一義的には政党にあります。政党交付金として年間300億円以上のお金が投入されている
わけですから、法律的にも捉えどころのない現在の政党の「権利と責任」を明確にして、根本か
ら改革する必要があります。
すべての改革は「人材」に収斂する
日本アカデメイアでも、長期ビジョン研究会の活動と並行して、2014年から大学生を中心とし
た「ジュニアーアカデメイア」を立ち上げ、若い世代の、若い世代による、日本のビジョン作り
に取り組むことにしました。若者と各界の第一人者たちがぶつかり合うような試みを進めること
で、人材作りの一助となればと思います。
大平構想から30数年。いま、日本中の知恵を結集する時期を迎えているのです。
(文芸春秋2014年新年号169頁~179頁より)
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要P.W.